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法人が債務不履行に陥ったときの任意売却と破産の現実のお話です

法人が債務不履行に陥ったときの任意売却と破産の現実のお話です

~偏頗弁済・債権者調整・破産却下のリスクを徹底解説~

はじめに

会社経営を続けていると、資金繰りが急に悪化し、返済や支払いが滞ることがあります。特に中小企業では、わずかな売上不振や取引先の支払遅延がきっかけとなり、債務不履行(返済不能) に陥るケースは珍しくありません。
このような状況で経営者が検討するのが、任意売却自己破産といった選択肢です。

しかし、どちらの道を選んでも「偏頗弁済(特定の債権者だけを優遇する支払い)」や「債権者の同意」、「破産申立て却下」といった大きなリスクが存在します。

今回は、法人が債務不履行になった際の現実と注意点を整理して解説します。

法人における債務不履行とは?

法人における「債務不履行」とは、契約や法律に基づいて負っている返済・支払義務を果たせない状態を指します。

単に「資金繰りが苦しい」という段階を超え、契約上の期限までに約束した支払いができないことが明確になった時点で、債務不履行とみなされます。

典型的な債務不履行のケース

1. 金融機関への借入返済が滞る

・元金や利息の返済を期限通りに行えない。

・リスケ(返済条件変更)を打診する前に延滞すると、信用情報に傷がつきます。

2. 仕入先や下請けへの支払い遅延

・商品やサービスを受けたにもかかわらず、代金を支払えない。

・取引停止や訴訟リスクに直結します。

3. リース料や家賃を払えない

・設備や事務所の利用契約を維持できず、事業の継続性が損なわれる。

4. 税金や社会保険料を滞納する

・消費税、法人税、源泉所得税、社会保険料などの公租公課。

・税務署や年金事務所による差押えに発展することもあります

特に重大なケース:「2回の不渡り」

・手形・小切手が6か月以内に2回不渡りになると、金融機関から銀行取引停止処分を受けます。

・取引停止は事実上の「倒産」を意味し、すべての金融取引ができなくなるため、会社の存続は極めて困難になります。

・その情報は全国銀行協会を通じて公表されるため、取引先からの信用も完全に失われます。

ポイント

法人の債務不履行は「支払いの遅れ」から始まりますが、放置すれば 不渡り → 銀行取引停止 → 事実上の倒産 という流れに直結します。

特に税金や下請けへの支払いを滞納すると、社会的信用や事業基盤に大きなダメージを与えます。

そのため、債務不履行の兆候が見えた段階で、

・早期に金融機関とリスケ交渉

・税務署との納税猶予制度の活用

・不動産や資産の任意売却による資金確保

などの対策を検討することが非常に重要です。

任意売却という選択肢

法人が金融機関から融資を受ける際、不動産を担保に差し入れているケースは非常に多く見られます。

しかし、返済が不能となると金融機関は担保権を実行し、競売にかける手続きに進みます。

競売のリスク

・市場価格より2〜3割安く売却されるケースが一般的

・売却代金が少ないため多額の残債が残る

・公開情報となるため、取引先や社員に経営不振が周知されてしまう

つまり競売は、法人にとって「資産的にも、信用的にも大きなダメージ」をもたらします。

任意売却とは?

こうした競売を回避するための方法が任意売却です。

任意売却とは、債権者(金融機関など)の同意を得て、市場に近い価格で不動産を売却し、その代金を返済に充てる仕組みです。

任意売却のメリット

1. 競売より高値で売却できる可能性が高い
→ 残債を少しでも減らせる。

2. 債権者との協議による柔軟な解決
→ 返済条件の調整や、残債の分割返済が認められる場合もある。

3. 心理的負担の軽減
→ 公開情報となる競売と異なり、外部に知られにくく、社員や家族への影響を抑えられる。

法人の任意売却の場合のハードル

任意売却を実行するには債権者全員の同意が不可欠です。

法人の場合、メインバンク以外にも複数の金融機関、リース会社、保証協会などが関わっているケースが多く、全員の合意を得るのは容易ではありません。

このため、法人の任意売却は「調整力」と「交渉力」が問われる手続きといえます。

法人が任意売却を選ぶ場合の注意点

任意売却は競売回避の有効な手段ですが、法人が選択する場合にはいくつか特有の注意点があります。

事前に理解しておかないと、後々「偏頗弁済」や「破産手続きとの整合性」で大きな問題になる可能性があります。

1. 偏頗弁済(へんぱべんさい)のリスク

・偏頗弁済とは?
特定の債権者だけを優遇して返済する行為のこと。
例えば「担保権者の銀行には返済できたが、仕入先やリース会社には払わなかった」というケースです。

・法人破産の場合
破産手続きに入った際に「任意売却の売却代金を一部の債権者に偏って支払った」と認定されると、否認権の対象となり、支払ったお金を破産管財人が取り戻すことがあります。

・ポイント
担保権者(抵当権者)への返済は「担保権実行」とみなされるため基本的に偏頗弁済にはあたりません。
しかし、担保がない取引先やリース会社に“優先的に”返済した場合は注意が必要です。

2. 破産との関係

・任意売却だけで解決しない場合
任意売却をしても残債が大きく残ることは珍しくありません。法人に資産やキャッシュがなければ、最終的に法人の破産を選択せざるを得ないケースも多いです。

・自己破産の却下リスク
「任意売却で資産を処分した後に自己破産を申立てたが、偏頗弁済や不透明な資金処理があった」と判断されると、裁判所が破産申立を却下する可能性もゼロではありません。

・まとめ
任意売却は「単独での解決策」ではなく、破産・民事再生などの法的整理と組み合わせて検討することが現実的です。

3. 経営者保証の扱い

・法人と経営者は別人格ですが、多くの中小企業では経営者が銀行から「連帯保証人」として個人保証をしています。

・この場合、法人が任意売却をしても残債が残れば、経営者個人に請求が及ぶ可能性が高いです。

・したがって「法人の任意売却=経営者の個人破産や個人再生の検討」とセットになるケースが非常に多いのが実情です。

4. 実務的な注意点

・任意売却を進める際は債権者全員の同意が前提。特に保証協会やサブバンクの調整が難航するケースが多い。

・売却前に、今後の処理(清算・破産・再生)を見据えた「出口戦略」を専門家と設計しておくことが重要。

・曖昧な資金処理は後々トラブルの原因になるため、売却代金の流れを明確化しておく。

ポイント

法人の任意売却は「競売より有利」というメリットがある一方、

・偏頗弁済のリスク

・破産手続きとの整合性

・経営者保証による個人への影響

といった大きな注意点があります。

そのため実務上は、任意売却単独ではなく、破産や民事再生などの法的手続きとセットで考えることが不可欠です。

偏頗弁済(へんぱべんさい)のリスク

法人が任意売却や債務整理を進めるうえで、最も注意しなければならないのが偏頗弁済(へんぱべんさい)です。

偏頗弁済とは、特定の債権者だけを優遇して返済する行為のこと。

経営者としては「長年お世話になった取引先には迷惑をかけたくない」「せめて社員の給与だけは払いたい」と考えるのは自然な気持ちです。

しかし、法律上はすべての債権者を平等に扱うことが原則であり、一部を優遇すると不公平な返済として法的に問題視されます。

その結果、破産手続で取り消されたり、他の債権者から不当だと追及されたり、最悪の場合は経営者が背任行為として責任を問われるリスクもあるのです。

偏頗弁済とは?

債務者が、特定の債権者だけを優遇して返済する行為を指します。

典型的な例

・A銀行には返済したが、同じ立場のB銀行には払わなかった

・長年、付き合いのある取引先にだけ支払った

・友人や親族が経営する会社にだけ優先的に返済した

偏頗弁済が問題となる理由

1. 破産手続で取り消される可能性
→ 破産管財人は「不公平な返済」と判断した支払いを取り消し、返金を求める権限を持っています。

2. 他の債権者から法的に追及される
→ 一部の債権者だけが優遇されれば、他の債権者は損をします。そのため、不公平を理由に訴訟や異議が出されることがあります。

3. 経営者が背任行為として責任を問われる可能性
→ 「会社財産を一部の債権者にだけ使った」として、経営者個人に損害賠償や刑事責任が及ぶこともあります。

抵当権者への返済は偏頗弁済になるのか?

原則

抵当権者への返済(担保付き債権の弁済)は、通常は偏頗弁済には当たりません。

理由は以下の通りです。

・抵当権者には担保権という「優先的に弁済を受ける権利」がある

・不動産を競売や任意売却すれば、担保権者は優先的に配当を受けられる

・そのため、担保権者に対して弁済することは「当然の権利の実行」であり、不公平な優遇には当たらない



・法人が不動産を任意売却 → 売却代金から抵当権者に返済する
➡ これは偏頗弁済ではなく、担保権に基づく正当な回収です。

偏頗弁済とされるケースの違い

偏頗弁済とは、特定の債権者だけを優遇して返済する行為を指します。具体的には、以下のような場合が該当します。

・担保のない債権者(無担保債権者)にだけ一部返済する

・保証人や親族の借入だけを優先的に返済する

・特定の取引先だけ「お世話になったから」と支払う

一方で、担保権者への返済は法律上の優先権に基づくものであり、偏頗弁済にはあたりません。

つまり整理すると、

・担保権者への返済 → 正当な返済

・無担保債権者の一部優遇 → 偏頗弁済

この違いを理解しておくことが、任意売却や債務整理を進める上で非常に重要です。

注意点(偏頗弁済の例外)

ただし、偏頗弁済の判断には例外もあります。以下のような特殊なケースでは、通常の返済でも偏頗弁済に問われる可能性があります。

・担保権が実質的に無価値(担保不足)で、担保権者に通常以上の返済をした場合

・法的整理前に「担保権消滅請求」や「担保権放棄」が絡み、不自然な返済が行われた場合

こうしたケースでは、実務上、弁護士や破産管財人が詳細に判断します。
単純に「担保権者への返済=安全」とは言い切れないため、慎重な対応が必要です。

結論(偏頗弁済の扱い)

・抵当権者(担保付き債権者)への返済
通常は偏頗弁済に該当しません。任意売却や競売の過程においては、当然の優先弁済として認められます。

・無担保債権者への優遇的な支払い
特定の債権者だけを優遇すると、偏頗弁済と判断されやすいため注意が必要です。

経営者の心理と法律の原則

経営者としては、

・「長年付き合ってきた取引先には迷惑をかけたくない」

・「社員の給与だけは何とか払いたい」という気持ちは当然です。

しかし、法律の建前は、すべての債権者に公平であること。

結果的に一部を優遇すれば、「善意」ではなく「不公平」として処理されてしまいます。

実務での注意点

・任意売却による売却代金の配分は、債権者全員の同意を得た上で行うことが必須。

・「情に流されて先に支払う」ことは後で大きなリスクになる。

・資金の動きは必ず専門家を通じて透明化しておくことが安全です。

ポイント

偏頗弁済は「助けたい」という経営者の気持ちから生まれることが多いですが、結果的に法的トラブルや責任追及に直結するリスクを伴います。

だからこそ、任意売却や債務整理は「感情」ではなく「法的な公平性」を優先する必要があり、専門家のサポートが欠かせません。

任意売却における債権者調整の重要性

法人の任意売却は、担保権者(メインバンクなど)との合意だけで成立するものではありません。

リース会社、仕入先への未払い、保証協会など、複数の債権者が存在するケースが一般的です。

そのため、債権者全員との合意形成(調整)が不可欠となります。

債権者との調整の流れ

1. 現状説明
任意売却の専門家と共に、各債権者へ「返済不能の現状」と「競売回避のための任意売却」という選択肢を丁寧に説明。

2. 配当シミュレーションの提示
不動産売却によって得られる予想金額を示し、債権者ごとに「どの程度配分できるのか」を明確化。

3. 債権者間での調整
特定の債権者を優遇せず、公平な配分ルールを設定。ここで調整が不十分だと不満が生じ、同意を拒否する債権者が出る可能性がある。

4. 全員合意 → 売却契約の締結
すべての債権者が同意して初めて、売却契約に進むことが可能。合意形成に時間を要することも多い。

債権者との調整を軽視した場合のリスク

・特定の債権者だけを優遇すると「偏頗弁済」とされる可能性

・任意売却が途中で頓挫し、競売へ移行するリスク

・不公平な配分を理由に、債権者から法的トラブルに発展する恐れ

ポイント

任意売却は「単に不動産を売る」だけではなく、債権者全員の納得を得る調整プロセスが最大のカギとなります。

債権者との調整を怠れば、任意売却が成立しないだけでなく、法的なトラブルや経営者責任にもつながりかねません。

だからこそ、法人任意売却を検討する際には、債権者調整に精通した専門家の関与が不可欠です。

法人の自己破産という選択肢

資金繰りが完全に行き詰まり、任意売却を実施しても残債が大きく解消できない場合には、最終的な手段として法人の自己破産を検討せざるを得ません。

裁判所に破産を申し立てると、破産管財人が選任され、会社の全財産を換価処分したうえで、債権者に公平に配当されます。

なお、法人破産には個人のような「免責制度」は存在しないため、手続き完了とともに法人そのものは消滅します。

また、代表者が連帯保証人になっているケースでは、法人破産後に債務請求が個人に及ぶため、法人破産と個人破産を同時に進める必要が生じる点にも注意が必要です。

自己破産の流れ

1. 裁判所への破産申立て
まず弁護士を通じて、裁判所に法人の破産申立てを行います。申立書には債務の状況や資産内容、取引履歴などを添付し、破産開始決定を求めます。

2. 破産管財人の選任
裁判所が破産手続開始を認めると、破産管財人が選任されます。

管財人は会社の財産・帳簿・取引を調査し、資産を売却(換価処分)したうえで、債権者に公平に配当します。この段階で、不正な取引や偏頗弁済がなかったかもチェックされます。

3. 法人の消滅
法人破産には、個人破産のような「免責制度」がありません。すべての手続きが完了すると法人そのものが消滅し、法人格は抹消されます。そのため、代表者が連帯保証人になっている場合には、個人の破産申立ても同時に必要となるケースが多いです。

代表者への影響

中小企業では、代表者が融資の際に連帯保証人となっているケースがほとんどです。
そのため、法人が破産しても残債務は消えず、代表者個人に請求が移ることになります。

このような状況では、多くの場合、法人破産と同時に代表者個人の破産を申し立てることが、現実的かつ適切な解決策となります。

法人破産を選ぶ判断基準

法人破産は最終手段として位置付けられます。以下のような状況では、任意売却では解決が難しく、破産による「整理・清算」が現実的な選択肢となります。

1. 任意売却をしても債務が大きく残る
不動産を売却しても、残債務が依然として多額に残る場合。

2. 継続的な営業利益が見込めない
今後の事業継続による収益で債務返済が困難な場合。

3. 債権者との合意形成が不可能
任意売却やリスケジュールの交渉がまとまらず、債権者全員の同意を得られない場合。

ポイント

法人破産は、「経営の終止符」となる厳しい選択です。
しかし、ズルズルと延命して債務を拡大するよりも、早期に決断することで、経営者自身や家族の再出発につながるケースも少なくありません。

重要なのは、

・任意売却で立て直す余地があるのか

・それとも法人破産による整理が現実的かを冷静に見極めることです。

そのためにも、専門家の判断を仰ぎながら、最適な選択を進めることが不可欠です。

まとめ

任意売却は競売回避や高値売却が期待できる一方で、債権者調整や偏頗弁済リスクには注意が必要です。

法人の自己破産では「破産申立て却下」となる可能性もあり、特に財産がなく予納金を払えない場合には注意が必要です。

また、法人と代表者個人の責任は切り離せないため、法人破産と代表者個人破産という二段構えでの対応が現実的なケースも多くあります。

法人の資金繰りに不安がある方、任意売却や破産手続きのリスクを専門家と一緒に整理しましょう!

法人の債務不履行で悩んでいませんか?任意売却や偏頗弁済、破産申立却下などの複雑なリスクは専門家に相談するのが安心です。

まずは無料相談で状況を整理しましょう。

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