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【金融庁発表、貸付条件変更の最新データを徹底解説】住宅ローン・中小企業向け融資はどれだけ“救済”されたのか?

【金融庁発表、貸付条件変更の最新データを徹底解説】住宅ローン・中小企業向け融資はどれだけ“救済”されたのか?

金融庁が公表した 令和2年〜令和7年の貸付条件変更の実績を徹底解説

物価高・金利上昇・人件費の上昇、そして消費の停滞――。
この悪条件が長期化する中、多くの企業や住宅ローン利用者が資金繰りの不安を強めています。

こうした状況を受け、金融庁は 令和2年3月から令和7年3月末までの「貸付条件変更(リスケ)」実績 を継続的に公表してきました。
その件数・残高は、リーマンショック後を凌ぐ規模となっており、企業金融と住宅ローン救済の“現実”を映し出しています。

こちらのブログでは、この膨大なデータを専門家の立場からわかりやすく整理し、次のポイントを深く読み解きます。

  • どの金融機関が、どれほど債務者支援に踏み込んだのか?
    (メガバンク・地銀・信金の姿勢の違い)
  • 住宅ローンや事業融資は“どこまで”救済されたのか?
    (返済猶予・元金据え置き・条件緩和の全体像)
  • 支援の終了はいつ来るのか?貸しはがしはあるのか?
    (令和7年以降の展望とリスク)
  • 廃業・事業再生コンサルタントとしての実務的アドバイス
    (早期対応の重要性・取るべき打ち手)

「いま日本で何が起きているのか」
「これから企業と個人にどんな波が来るのか」
を体系的に理解するための“実務家向け解説”としてまとめます。

はじめに:貸付条件変更の“累計データ”が語るもの

コロナ禍を契機に、中小企業や個人の生活を守るため、全国の金融機関が前例のない規模で貸付条件の変更(いわゆるリスケ)を実施してきました。
かつての「中小企業金融円滑化法」以来、ここまで大規模かつ長期間にわたる金融支援は極めて異例です。

金融庁は 令和7年3月末までの累計データ を公表しており、その件数は圧倒的なボリュームに達しています。

貸付条件の変更の実態(令和2年〜令和7年累計)

コロナ禍を契機に、中小企業や個人の生活を支えるため、金融機関による貸付条件の変更(いわゆるリスケ) が全国的に実施されてきました。かつての「中小企業金融円滑化法」以降、これほど大規模に長期間つづく金融支援はきわめて異例です。

金融庁は令和7年3月末までの累計データを公表しており、その件数は膨大です。

中小企業向け(銀行)
申込 約193万件/実行 約185万件(実行率98.8%)

中小企業向け(信金・信組ほか協同組織)
申込 約156万件/実行 約150万件(実行率99.4%)

住宅ローン(銀行)
申込 約10万件/実行 約8.9万件(実行率96.2%)

住宅ローン(協同組織金融機関)
申込 68,552件/実行 64,041件(実行率98.5%)

リスケの実行率は軒並み“ほぼ満額承認”。
この数字は、**「企業を倒産させない」**という国全体の強い意思の表れと言えます。

しかし同時に、経済が平時へ戻りつつある中で、
「この支援はいつまで続くのか?」
「終了を告げられたらどうなるのか?」
という不安も広がっています。

この記事では、金融庁の最新データをもとに全体像を整理しつつ、金融支援の今後の見通し、リスケ終了の伝達があった際の対応策、そして“貸しはがし”(突然の回収強化)が起きる可能性まで掘り下げます。

中小企業向け融資の貸付条件変更(主要金融機関9行等)

主要金融機関9行では、申込みが約30万件(300,328件)あり、そのうち 281,294件が実行されました。
謝絶は 8,732件で、実行率は97.0%と非常に高い水準です。

地域銀行98行では、1,629,054件の申込みに対し、1,567,365件が実行されています。
謝絶はわずか 13,430件で、実行率は99.2%と、ほぼ全面的に支援を受け入れた形です。

その他の金融機関では、申込み 1,867件に対して実行 1,631件、謝絶 112件、
実行率は **93.6%**とやや下がるものの、依然として高い救済姿勢が示されています。

これらを合計すると、全国183金融機関での申込みは 1,931,249件。
そのうち 1,850,290件が実行され、謝絶は22,274件にとどまっています。
全体の実行率は98.8%と、ほぼすべての申込者が何らかの支援を受けられたことがわかります。

住宅ローンの貸付条件変更(主要金融機関9行等)

住宅ローンのリスケについて、まず主要行では、31,940件の申込みに対し、27,962件が実行されました。
謝絶は 1,230件で、実行率は95.8%。高い承認率が維持されています。

地域銀行では、68,965件の申込みに対して、59,573件が実行され、
謝絶は 2,226件。実行率は **96.4%**と、主要行をやや上回る支援姿勢が見て取れます。

その他の金融機関では、申込み 2,537件のうち、1,927件が実行され、
謝絶は 124件。実行率は **94.0%**と、こちらも全体的に高いレベルを保っています。

これらを合計すると、申込みは 103,442件、実行 89,462件、謝絶 3,580件。
全体の**実行率は96.2%**となり、住宅ローンについても大半が救済措置を受けられたことが分かります。

中小企業向け融資の貸付条件変更(信用金庫・信用組合・農協等)

中小企業向けのリスケ状況を協同組織金融機関で見ていくと、まず信用金庫では、1,316,603件の申込みに対し、1,268,453件が実行されました。
謝絶は 7,586件で、実行率99.4%という非常に高い水準です。

信用組合では、223,697件の申込みのうち、218,144件が実行され、謝絶はわずか704件。実行率は 99.7%で、ほぼ全件に対応しています。

労働金庫は申込み 17件すべてが実行され、謝絶は0件で実行率100%という完全対応の姿勢が見て取れます。

信農連・信漁連では、申込み 6,653件に対し実行は 6,465件、謝絶 46件で実行率は 99.3%となります。

農協・漁協では、12,922件の申込みのうち12,582件が実行され、謝絶は 48件で実行率は 99.6%となっています。

これらを合わせると、協同組織全体(1,034機関)で、1,559,892件の申込みがあり、そのうち 1,505,661件が実行、謝絶は 8,384件で実行率は99.4%という極めて高い支援姿勢が浮き彫りになります。

特に信用金庫・信用組合が地域企業を圧倒的に支えている という事実が、この数字から明確に読み取れます。

住宅ローンの貸付条件変更(信用金庫・信用組合・農協等)

住宅ローンのリスケを協同組織金融機関で見ると、まず信用金庫では、43,833件の申込みに対して 41,008件が実行されています。
謝絶は 483件で、**実行率98.8%**というきわめて高い承認率です。

信用組合では、8,614件の申込みのうち 8,298件が実行され、謝絶は70件で実行率は 99.2%でほぼ全件が認められています。

労働金庫では、申込み8,778件に対して7,746件が実行され、謝絶は373件で実行率は 95.4%とやや下がるものの、依然として高い水準です。

信農連・信漁連では、申込み112件のうち 104件が実行され、謝絶は1件で実行率は 99.0%でなります。

農協・漁協では、7,215件の申込みに対し6,885件が実行され、謝絶は25件で実行率は 99.6%と非常に高い数値です。

全体を合計すると、申込みは68,552件、実行64,041件、謝絶952件で実行率は98.5%となり、銀行の住宅ローンリスケよりも一段高い承認率が示されています。

この数字から、協同組織金融機関が“地域の生活支援インフラ”として重要な役割を果たしていることが読み取れます。

ポイント:4つのデータから見える“日本の金融支援の実像”

今回のデータを横断的に見ると、コロナ禍以降の日本の金融支援が、いかに大規模で、かつ一貫して「救済優先」で実行されていたかがはっきりと浮かび上がります。

まず中小企業向けのリスケでは、銀行・協同組織を合わせて実行率はほぼ100%に近く、特に信用金庫や信用組合は、地域企業の資金繰りを支え続けてきた中心的存在であったことが明確です。

● 銀行全体の実行率:98.8%

● 協同組織金融機関全体の実行率:99.4%

● 信金・信組はほぼ「全件対応」に近い水準

地域の小規模事業者・個人事業主の多くが、信金・信組に駆け込んだ背景も読み取れます。

住宅ローンについても同様で、銀行の実行率が 96.2% と非常に高い数字を示している一方、協同組織金融機関ではさらに高い 98.5% に達し、家計への支援姿勢がより強く表れています。

● 銀行:困っている借主のほぼ全員に対応

● 信金・信組・農協など:地域住民の生活インフラとして機能し、銀行より高い実行率を維持

つまり、「事業者の資金繰り」と「個人の生活」を守るという2つの軸で、日本全体の金融が総力戦で支援に回った5年間 だったと言えます。

貸付条件変更は「いつまで続くのか?」

結論から言えば、貸付条件変更(リスケ)は、これまでのような“広く一律に認められる時代”から、今後は“縮小フェーズ”に入っていく可能性が非常に高いです。

これは単なる推測ではなく、金融庁の方針転換や政府の制度整備、そして、コロナ禍が終わり経済環境の変化を考えれば必然の流れといえます。

コロナ禍・物価高騰・人件費上昇のピークは越え、緊急性が後退

依然として物価は高止まりしているものの、コロナ直後のような「経済活動が止まり、資金繰りが一気に悪化する」局面は過ぎつつあります。

金融庁がリスケを事実上“全件承認”していた最大の理由は“企業を無条件で守らなければ倒産が連鎖する”という国家的危機感からでした。

その緊急性が薄れるにつれ、リスケ継続の必要性は徐々に弱まっています。

政府は“延命”ではなく“再生”へ舵を切り始めた

ここ数年で、政府・金融庁は以下の仕組みを強化している。

・事業再生ADR

・プレパッケージ型再生(事前調整型の迅速な再生手続き)

・中小企業の統廃合・事業承継支援の強化

これらはすべて、「返済猶予を続けて延命させるのではなく、事業モデルを作り直し、再生させる」という方向転換の象徴です・

つまり、リスケ一辺倒ではなく

・改善できる企業は再生へ
・改善できない企業は統合・撤退へ

という整理フェーズが始まっています。

金融庁が「リスケ後の再建計画」を明確に要求し始めた

令和6年以降の金融行政方針では、次のような言葉が繰り返し使われている。

「返済猶予だけでは事業は再生しない」
「リスケ後の経営改善計画が重要」

金融機関に対しては、

・“猶予するだけの支援”は評価されない

・“事業再生・収益改善につながる支援”を行うべき

という指示が出ており、これは明確に方針転換のサインです。

これからは「示せる企業」だけが生き残る

これまでの5年間は“審査緩和モード”でした。

しかし、これからは“計画を示して実行できる企業だけが支援を受け続けられる時代”へ移行していくと言われています。

・返済猶予は自動的には延長されない

・経営改善の根拠を求められる

・再建計画の実効性が審査基準になる

今後はこうした現実がより強まるでしょう。

貸付条件変更(リスケ)の終了を告げられたら何が起きるのか?

リスケが長く続いている企業にとって、最も不安なのが「銀行から返済再開を求められる瞬間」 です。

ただし、金融機関は絶対に“ある日突然”返済を元に戻すような乱暴な対応は取りません。

実務では、必ず次のような「合図」「プロセス」を踏みながら進んでいきます。

内部査定の変更(正常先 → 要注意先 → 破綻懸念先)

銀行内部では企業をランク付けしており、リスケが続くと多くは「正常先 → 要注意先」へ格下げされます。

・売上回復が見えない

・利益改善が進んでいない

・経営計画が提出されていない

こうした状況が続くと、担当者は「これ以上の猶予は出しづらい」と判断しやすくなります。

●コンサル視点:

内部査定の格下げは 即・危機ではなく“改善計画の提出が急務”というサインです。
この段階で動けば、まだ復帰の余地は十分残っています。

“再建計画”の提出要請が必ず来る

最も典型的なのがこのプロセスです。

銀行から「返済を回復させる道筋を示してください」と求められ、以下の項目を提出する必要が出てきます。

・3〜5年の売上予測

・経費削減のロードマップ

・設備投資の抑制案

・利益計画

・キャッシュフロー計画

これを出せないと再リスケはほぼ不可能。

●コンサル視点

現場で最も多いトラブルが「事業計画が数字合わせで実現性が薄い」というものです。

銀行は「夢物語」ではなく、根拠付きの改善計画 を求めてきます。

返済額の段階的引き上げ(ソフトランディング型)

実務上、返済の一括復帰はほぼありません。
多くは次のような段階的なプランです。

・最初の半年:毎月1万円

・次の1年:毎月3万円

・その後:通常返済へ

こうした ソフトランディング が一般的で、いきなり以前の返済額に戻すことが目的ではなく、「返済の意思と企業の再建性」を確認する意味を持ちます。

●コンサル視点:

このフェーズは“まだ救える状態”です。ここで無理をせずキャッシュフローの安定化を優先すると、再建の成功率が大きく上がります。

担保評価・保証協会の動きが活発化

リスケ終了を示唆されたタイミングで、裏側では次の動きが出ます。

・担保不動産の再評価

・競売した場合の回収見込みの再計算

・保証協会とのやり取りの増加

これは「いきなり取り上げる準備」ではなく、銀行が“リスクを再確認する作業” であり、内部手続きとして必ず行われるものです。

●コンサル視点

これが出た時点で「まだ時間がある」と認識して、逆に言えば最も動きやすいタイミング でもあります。

正常の返済再開がどうしても無理な場合の分岐

●選択肢1:事業再生(プレパッケージ含む)

第三者支援型の再生スキームで、

・債務圧縮

・事業譲渡

・新会社方式
などを組み合わせる方法。

●選択肢2:廃業+債務整理

事業継続が難しい場合に現実的なオプションであって、代表者個人の生活再建を最優先にする戦略といえます。

●選択肢3:法的整理(破産/民事再生)

倒産・破産等の法的整理は最終手段と言えます。ただし「破産=人生終了」ではありません。適切に使えば生活再建の起点になります。

“現実的な対応策”

リスケ終了の相談を受けた企業の多くは、実は “まだ手は残っている”のに気づいていない ことが非常に多いです。

以下は、実務で最も効果が高い対応策です。

① 「売上回復の根拠」を3つだけ提示する

銀行が知りたいのは“どうやって返済できるのか”の最も現実的な根拠。

・売上を上げるための単価アップ・価格転嫁等

・不採算部門の整理

・サブスク化などキャッシュフロー改善策

この3つを示せると、再リスケの成功率が高まります。

対応策②固定費の削減案は「半年以内に効果が出るもの」だけ提出すべき

銀行が再リスケの判断で最も重視するのは、「直近のキャッシュフローが改善するかどうか」 です。

逆に、

・2〜3年後に効く施策

・投資が必要で効果が見えづらい施策

・実施の前提に不確実性がある施策

こうした案は、実務ではほとんど評価されません。

銀行側の視点では、「半年以内に“確実に”支出が減るか?」ここが最重要ポイントです。

銀行が“短期改善”を求める理由

金融機関は“返済可能性”を次の2点で見ています。

① 将来ではなく「今」の支払い能力

銀行は「今のキャッシュフロー」にリスクがあるからリスケしているわけで、2年後に改善するプランでは返済継続を判断できない。

② 内部査定で「改善見込みがある」と評価できる期限が短い

銀行の内部規定では、改善見込みの評価はおおむね6〜12ヶ月以内の効果を基準 にすることが多い。

そのため、長期的な施策=査定に反映しにくいという事情があります。

どんな“半年以内に効く削減案”が評価されるのか?

① 人件費調整(業務委託化・配置転換・シフト最適化)

※リストラではなく“生産性の向上”として示すことが重要。

・アルバイトのシフト見直し

・業務委託化で固定→変動費へ変更

・不要な役職手当削減(管理職再編)

・3ヶ月以内で確実に効果が出るため、銀行は最も評価します。

② 家賃・賃料交渉(居抜き移転含む)

・家主との賃料減額交渉

・事務所・店舗の縮小移転

・仮移転でのコスト圧縮

・6ヶ月以内に効果が反映しやすい典型例。

③ 通信費・サブスク類の整理

・SaaSの解約

・固定電話回線の簡素化

・不要なクラウドサービスの統合

すぐに実行できて効果が大きく、銀行が最も好む削減項目。

④ 車両・機械のリース見直し

・車両台数の最適化

・不採算エリア撤退

・リース契約の再交渉

・「月3〜10万円」の削減が現実的。

⑤ 外注費削減(内製化/効率化)

・外注経理→クラウド会計+内製化

・定型業務の簡素化

・業務フローの見直しで工数削減

6ヶ月以内に確実な効果を出せることが多い。

⑥ 光熱費の最適化(即効性が高い)

・設備稼働時間の調整

・不要なスペースの閉鎖

・電力プランの再見直し

小さく見えるが、累計効果は大きい。

⑦ 在庫圧縮(資金繰り改善に直結)

・回転率の悪い在庫の圧縮

・仕入れサイクルの短縮

・受注生産への移行

これは固定費ではないが、銀行はキャッシュフロー改善として高く評価されます。

⑧ 「撤退」と「縮小」も高評価

・利益率の低い事業の潔い撤退

・不採算店舗のクローズ

・低利益商材のカット

銀行が最も信頼するのが「赤字部門に手を入れる覚悟」となります。

逆に“銀行が評価しない削減案”の例

・新規投資(IT・設備など)の後に効果が出る案

・人員削減を伴う大規模リストラ(時間もコストもかかる)

・長期的な企業体質改善(理念は立派でもキャッシュ改善は遅い)

・新規事業で収益を補う(不確実性が高すぎる)

これらは 実行の確実性が低く、査定に反映されない。

対応策③:任意売却+事業譲渡の併用は“破産回避”に最も効果的

資金繰りが限界に近づき、リスケの延長も難しいケースでは、「任意売却+事業譲渡」 という組み合わせが、実務で最も現実的かつ成功率の高い選択肢になります。

これは決して特殊なスキームではなく、私の現場でも “破産に進まずに再スタートできた企業の王道パターン” と言ってよいほど多い手法です。

ステップ1:不動産を売却もしくは任意売却して債務を圧縮する

会社や社長個人の不動産(自宅・工場・倉庫など)を売却もしくは任意売却することで、返済不能状態の原因である“重たい債務”を一度大きく縮小 できます。

任意売却は競売より高く売れるため、
・残債が小さくなる
・保証協会や銀行との協議がスムーズ
・社長個人の破産リスクが大幅に低下

このようなメリットがあります。

ステップ2:本業は「事業譲渡」で買い手に引き継ぐ

会社の業績が最悪の状況になる前に事業譲渡をする事を1つの選択肢を考えましょう。

業績が悪化していても、事業そのものには価値が残っている ケースが多い。

・顧客リスト

・仕入れルート

・技術

・従業員

・ブランド

・長年の取引実績

これらは企業としての立派な“資産”です。

事業譲渡によって、買い手はこれらの資産を引き継ぎ、社長は事業の債務から切り離され、従業員の雇用も維持されることになります。

経営破綻に近い状態でも、意外なほど買い手が見つかるのはこのためです。

ステップ3:経営者は“ほぼ無傷で再スタート”できる

任意売却で債務が圧縮され、事業譲渡で本業を引き継いでもらえると、

・個人破産を避けやすい

・生活基盤を守れる

・「廃業=人生終了」という流れを断ち切れる

こうしたメリットが同時に実現します。

リスケ終了 → 返済再開 → 資金ショートという最悪の未来から抜け出すために、この二段構えは非常に強力です。

この手法が“破産回避率が高い”理由

任意売却+事業譲渡は、言い換えると 「資産と事業価値を分離して最適化する」 手法です。

ポイントは3つ:

① ローン(不動産)は“高く売る”ことで残債リスクを削る

→ 任意売却なら競売より数百万円~数千万円レベルで差が出ることも。

② 本業は“評価の高い部分だけ”を買い手に承継

→ 不採算部門は切り離し、良い部分だけを移すので買い手も見つかりやすい。

③ 経営者個人の連帯保証リスクを最小化

→ 残債が縮小するため、債務整理なしでも生活再建が可能になる。

この設計により、「破産しかない」と思われていたケースでも、7〜8割は再スタートを実現できる のが実務の体感です。

対応策④:「早期に動いた人ほど救われる」──これは紛れもない事実

リスケ終了の兆しが見えた瞬間。実はそこが 最も多くの選択肢を残せる唯一のタイミング です。

金融機関からの言葉で言えば、

・「そろそろ通常返済への復帰を検討してほしい」

・「今後の計画を出してください」

・「返済条件の見直しをしましょう」

このような“柔らかい通知”が最初のサインになります。

この時点で動けば、任意売却・事業譲渡・再生計画・資金繰り改善など、打てる手が豊富 に残っている。

しかし──
ここで多くの経営者がやってしまうのが、

「もう少し様子を見よう」
「来月には売上が戻るはず」
「銀行も分かってくれるだろう」

という 楽観的な先送り。

これは実務上、最も危険です。

なぜ「様子を見る」が最悪なのか?

① 銀行の“内部査定”は待ってくれない

銀行は担当者が優しくても、内部では淡々と査定が進みます。

・要注意先 → 破綻懸念先

・返済可能性の評価引き下げ

・担保の再評価

・保証協会への照会強化

査定が1段階落ちるだけで、使える選択肢が一気に減る。

経営者が何もしていなくても、時間の経過だけで状況は悪化していきます。

② 資金ショートは“瞬間的”に起きる

多くの会社が倒れる瞬間は、特別な出来事ではなく、

・仕入れの支払い

・社員の給与

・リース代や家賃

・国保・年金・税金

ここが一回遅れただけで、一気に資金繰りが崩れます。

倒産は「売上が落ちたから」ではなく、支払いのタイミングとキャッシュが合わなくなる瞬間に起きる。

だからこそ、“様子見”は命取り。

③ 時間が経つほど“手遅れ”になる

・任意売却 → 買い手が見つからない

・事業譲渡 → 価値が残らなくなる

・再生計画 → 根拠が弱いと言われる

・債務整理 → 破産以外の手段が消える

資金が尽きたあとでは、どんな優秀な専門家でも打てる手がほとんどありません。

選択肢は「まだ余力がある時」にしか存在しないのです。

これは現場で何百件も見てきた、揺るぎない事実です。

金融機関の貸し剥がしはあるのか?

結論から言うと、

▶ 銀行による“貸しはがし”は現状、リスクとしては限定的。
 一方で「貸し渋り」や「午後枠(審査の消極化)」は確実に強まっている。

つまり、“強制回収の時代”が来ているわけではないが、“新規融資に慎重な時代”には確実に入りつつあります。

貸し剥がしが起きにくい理由

まず押さえておくべきは、金融庁の姿勢は今も 「企業支援を優先せよ」 という方針を維持していることです。

そのため、次の3点からも、貸しはがし(不当な突然の回収強化)は起きにくいと言えます。

① 金融庁の監督方針が「支援重視」から変わっていない

コロナ以降、政府・金融庁は一貫して返済猶予・資金繰り支援が優先 という立場を続けています。

もし金融機関が過剰な回収を行えば、「企業支援に反している」として行政指導の対象になりかねない。

銀行はこのリスクを非常に嫌うため、一方的な貸しはがしは起こりにくいのです。

② 貸し剥がしを行うと“行政処分リスク”が高い

債権者である金融機関の中小企業への貸し剥がしは、金融庁にとっても政治的にもセンシティブな問題です。

過去にも、不当な回収が発覚した金融機関が「業務改善命令」を受けた例があります。

そのため金融機関は極めて慎重で、正当な理由がない回収強化はしないことが殆どです。

③ 協同組織金融機関(信金・信組)は地域密着で“無理をしない”

信用金庫・信用組合は地域経済の維持が使命です。

貸しはがしを行えば地域から信用を失い、長期的には自分たちが苦しくなります。

そのため信金・信組は

・丁寧な対話

・無理のない返済提案

・地域企業の存続を第一

こうした姿勢を崩しません。

注意すべき兆候は確実に存在する

貸し剥がしとまでは言えなくても、「融資姿勢が普通に戻りつつある」 のは間違いありません。

その兆候として、実務で多く確認されるのが以下です。

● 担当者が変わる

→ 交代は「案件を見直すサイン」。
新担当者は前任者より厳しめに見てきます。

● 事業計画の提出を繰り返し求めてくる

→ “リスケを続ける前提ではなく、返済再開の道筋を探っている”状態。

● 追加担保・追加保証人を求める

→ リスク評価が下がっている証拠。

● 新規融資が止まる

→ 最も分かりやすい融資姿勢の変化。

● リスケの回数を数え始める

→ 「もう限界に近い」という暗黙のメッセージ。

廃業・事業再生コンサルタントとしての私見と対応策

ここからは、これまで多くの企業の再生・撤退に携わってきた立場から、“現場で本当に起きていること”“どうすれば救えるのか”を、包み隠さず解説します。

① リスケはあくまで「延命装置」

貸付条件の変更(リスケ)はゴールではなく、“時間を買う手段”にすぎません。

私の経験では、貸付条件の変更そのものが企業を立て直すわけではなく、企業の財務状況を改善させるための期間を少しでも伸ばすための1つの方法にすぎません。

コロナ禍以降、金融庁・政府・金融機関からの5年間の支援で、多くの会社が息をつなぐことはできました。
しかし、利益が出る体質に転換できた企業は“半分以下” という印象です。

理由はシンプルで、コロナ禍以降の世の中の急激な変化に対応しきれていない企業が多くあるという事です。
円安・物価高騰・インフレ等により消費が低迷していて、尚且つ国民の平均年収は上がらないと状況では中小企業は変化に対応しきれないのは仕方がないのかもしれません

つまり、リスケ期間は「治療期間」であって、治療しなければ元には戻れないということです。

② 返済再開は“唐突”ではない

借入先の金融機関との関係性は敵対するのではなく、事前相談さえすれば道は開けるという事を忘れないでください。

実際、「相談した会社」には 段階的な返済プラン をほぼ確実に提示してくれます。

これは現場で最も多い“ソフトランディング型”復帰です。

問題は、相談しないまま期限を迎える企業が圧倒的に多いことで。ここで一気に道が閉ざされ、破綻リスクが跳ね上がります。

③ “返済再開できない前提”で動く企業ほど救われる

7割の企業がこの戦略で生き残っている

私が関わって再生に成功した企業の約70%は、最初から 「返済再開できない未来」を前提に計画 を組んでいます。

このスタンスが救う理由は、判断の優先順位が完全に変わるからです。

・不採算事業の切離

・担保不動産の見直し

・借入の一本化

・任意売却による債務圧縮

・個人保証の外し

・撤退の順序整理

これらは、ギリギリになってから動くほど失敗します。

逆に、早く着手した企業ほど「守れるものが多い」 のが実務の現実です。

④ 不動産を持つ企業は“売却による資産整理”が最も即効性のある改善策

事業再生の成功率を一気に押し上げる一手

担保不動産がある企業は、再生の成功率が圧倒的に高くなります。

なぜか?

・担保評価を見直すだけで返済負担が大幅に下がる

・売却差益で債務が一気に縮小する

・個人保証を解除できるケースも多い

・再生・撤退の選択肢が一気に広がる

特に、「任意売却+事業譲渡」を併用できる企業は、破産回避の確率が劇的に上がります。

本業の雇用を守りながら、経営者は再スタートが切れる。
実務では、最も“救える確率が高い”戦略です。

⑤ 廃業は“負け”ではなく、むしろ「守りの戦略」

固定費を抱えて延命するほうが危険

廃業という言葉にはネガティブなイメージがつきまといます。
しかし、現場で見てきた結論はまったく逆です。

廃業は“逃げ”ではなく、企業と家族を守るための戦略” です。

・赤字の垂れ流しを止める

・個人資産を守る

・借金圧縮で生活基盤を回復

・新しい事業に挑戦できる状態にする

むしろ、「延命にこだわった結果、資産も信用も失う」というケースのほうが圧倒的に多い。

だからこそ“撤退は悪ではなく、未来を守るための一手”という考えを強く提案しています。

今すぐ取るべき4つの行動

(リスケ終了を告げられる前にやるべき“決定打”)

返済再開の予兆が出たとき、企業の命運は「最初の1〜2ヶ月」でほぼ決まります。

ここでは、数多くの企業を支援してきた経験から、“最も効果があり、最速で成果に直結する4つの行動”だけに絞って解説します。

① 最新の損益分岐点とキャッシュフローを把握する

多くの企業が「数字不明」のままリスケしているという現実

リスケ中の企業の多くは、次の質問に答えられません。

・今の損益分岐点はいくらか?

・月商の何%が固定費なのか?

・返済再開後、黒字化シミュレーションが可能か?

・毎月のキャッシュフローはいくら余るのか?

これを把握していないと、銀行への説明ができず、“返済再開の計画性がない”と見なされる危険 があります。

逆に、最新の損益ラインが明確な企業は、圧倒的に交渉が有利 です。

ここで重要なのは、「過去の決算」ではなく “直近12ヶ月の実態ベース” で再計算すること。

数字を出すだけで、銀行の対応はまったく変わります。

② 金融機関へ「早期相談」する

返済再開の2〜3ヶ月前に動く。これがすべての分岐点。

返済再開の時期が近づいてから相談する企業が非常に多いですが、実務ではこれは 完全にアウトです。

銀行側の内部プロセスは、“最低でも1〜2ヶ月”かかります。

・内部査定の見直し

・再リスケの妥当性チェック

・本部決裁

・担当者変更

・担保評価の更新

これらを考えると、ベストタイミングは「返済再開の2〜3ヶ月前」。

逆に、このタイミングで相談できない企業は、
・段階的返済プランが通らない
・再リスケが否決される
・担保の動きが加速する
というリスクが一気に高まります。

③ 不動産を持つ場合は“評価額を再計算”する

任意売却・借換・担保入替…出口戦略が一気に広がる

担保不動産を持つ企業は、必ず評価額を最新化 するべきです。

なぜなら、評価額が変わるだけで取れる選択肢が大きく変わるからです。

・任意売却で債務圧縮

・借換で返済負担を軽減

・担保入替で個人保証を外す

・不動産を売らずに余力を生み出す

たとえば、「コロナ前から評価が上がっているケース」や「重要拡大により価値が増えているケース」も多く、銀行の査定より高い価格で売れる という事例は珍しくありません。

不動産の評価額の再チェックは、事業再生における“最大の武器”になります。

④ 再生・廃業の専門家とセットで動く

税理士・弁護士だけでは不十分。

金融交渉に精通した専門家と組むのが必須。

多くの企業が誤解していますが、税理士や弁護士は「再生スキームの専門家」ではありません。

・税理士:税務と決算のプロ

・弁護士:訴訟・法的整理のプロ

一方で、リスケ・任意売却・事業の切離・保証解除・金融交渉・再生計画策定、これらを総合的に扱える専門家は限られています。

再生は“総合格闘技”のようなもので、ひとつの専門家だけでは構造的に足りません。

実務では、専門家とセットで動いた企業ほど、破産回避率・再建成功率が圧倒的に高いというデータが出ています。

まとめ

金融庁が発表している貸付条件の変更件数は、令和2〜7年の5年間で累計350万件を超え、実行率もほぼ100%に近い数字で前例のない規模で行われました。

しかし、今後は確実に縮小フェーズへ移行し、終了時には返済再開・担保評価・再建計画の提出が求められる局面に入ります。

貸し剥がしのリスクは限定的である一方、貸し渋りは確実に強まり、資金繰りの緊張感は増していきます。

その中で、不動産の任意売却や事業整理は債務を大きく圧縮できる最も現実的な手段となり、廃業も決して失敗ではなく、経営者を守るための戦略的な選択肢として位置づけられます。

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