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金利のある時代に突入した不動産業界と中小企業はどうなる?生き残る会社・淘汰される会社の違いのお話です

金利のある時代に突入した不動産業界と中小企業はどうなる?生き残る会社・淘汰される会社の違いのお話です

はじめに|「金利がある」というだけで、世界はここまで変わる

長く続いた超低金利、実質ゼロ金利の時代。

日本では、この環境があまりにも当たり前になり、「金利がある世界」を実感したことのない経営者や不動産事業者も少なくありません。

しかし、日銀の金融政策転換により、いよいよ日本も「金利のある世の中」へ本格的に戻り始めました。

金利が上がる、というと真っ先に住宅ローンの話題が出がちですが、本質的な影響はむしろ不動産業界や中小企業の事業構造そのものに及びます。

こちらのブログでは、

・不動産業界は今後どう変質していくのか
・不動産を扱う中小企業は何が厳しくなり、何が生き残り条件になるのか
・「倒産」ではなく「整理・撤退」が増える理由

こうした点を、できるだけ分かりやすく、かつ実務目線で解説していきます。

第1章|金利ゼロ時代の不動産業界は、実は“例外的な世界”だった

まず理解しておくべきなのは、ここ十数年の不動産業界が「本来の市場原理」から大きく外れた、極めて特殊な環境だったという事実です。

日本では長らく、実質的なゼロ金利政策が続いてきました。
この環境下では、借入を前提とする不動産ビジネスにおいて「資金コスト」という概念が、驚くほど軽視されてきました。

本来、不動産業は「いくらで仕入れ、どの期間で回転させ、どの出口で利益を確定させるか」という時間と資金の管理がすべてのビジネスです。

ところが金利ゼロ時代には、借入金利が極めて低く、保有期間が長引いても利息負担がほとんど感じられず、多少売れ残って在庫を抱えても、すぐに経営を揺るがす事態にはなりにくい。

そんな環境が当たり前になっていました。

結果として不動産会社の現場では、

・とりあえず仕入れておく
・相場が上がるまで待つ
・売れなければ寝かせておく

といった、「本来なら高リスクな判断」が、現実には成立してしまっていたのです。

言い換えれば、金利ゼロという“追い風”が、ビジネスモデルの甘さを覆い隠していたとも言えます。

金利が「ある」だけで、同じ商売は成立しなくなる

しかし、金利が上がり始めた瞬間、この構造は一気に崩れます。

借入残高 × 金利
この単純な計算式が、毎月確実にコストとして経営にのしかかるからです。

これまで感覚的に処理されてきた支出が、数字として、キャッシュフローとして、容赦なく可視化されていきます。

そのとき初めて、

・仕入れてから売却までの「回転の遅さ」
・売れ残りによる「在庫の長期化」
・出口を曖昧にしたまま仕入れてきた「戦略の甘さ」

こうした問題が、一斉に表面化します。

特に中小の不動産会社では、「物件は持っているが、現金が回らない」「含み益はあるが、金利負担で首が締まる」といった状態に陥りやすくなります。

これは決して不況ということではなく市場が正常な姿に戻りつつあるだけなのです。

ゼロ金利時代が例外だったのであって、金利を意識した経営こそが本来の不動産業の姿です。

この変化を理解できるかどうか、ここが、これからの不動産業界における「分かれ道」になります。

第2章|金利のある時代、不動産業界で起きる3つの構造変化

金利が「ある」状態に戻ったことで、不動産業界では表面的な市況変動以上に、ビジネスの構造そのものが変わり始めるでしょう。

ここでは、特に中小の不動産会社に直撃する3つの変化について整理していきます。

①「持つだけ」の不動産業者は、確実に苦しくなる

金利のある時代において、在庫として保有する不動産は、もはや「資産」ではなく時間とともに増殖するコストです。

物件を仕入れた瞬間から、「借入金に対する金利負担」「固定資産税・都市計画税」「管理費、修繕費、広告費」等の経費が増加することになります。

これらの支出が、売れるかどうかに関係なく積み上がっていきます。

ゼロ金利に近い時代であれば、こうしたコストは「我慢できる範囲」に収まっていました。

しかし、金利が上がると、保有期間が1年延びるだけで、収益計画が簡単に崩れます。

特に問題になるのが、仕入れた時点で明確な出口が描けていない案件や、価格調整を後回しにし、「相場が戻るのを待つ」判断は経営を圧迫する事となります。

こうした案件は、時間が経つほど赤字リスクを内包し静かに資金繰りを圧迫していきます。

「売れないから持つ」のではなく、「持っているから苦しくなる」これが、金利のある時代の現実です。

②「相場を見る力」よりも「出口を設計する力」が問われる

これまでの不動産業界では、

・相場より安く買えた
・立地が良い
・いずれ値上がりしそう

こうした要素だけで、一定の成功が見込める場面がありました。

ところが金利がある環境では、「安く買えたかどうか」以上に重要なのが、どの出口に、どの時間軸で持っていくかです。

つまり、

・誰に売れるのか
・いくらで売れるのか
・どれくらいの期間で売却するのか

これを仕入れの段階で具体的に描けていない案件は、金融機関からの評価も下がり、事業として成立しにくくなります。

プロジェクト融資が通りにくくなるのも、ここが理由です。
「相場観」だけの説明では、金融機関は納得しません。

今後は、価格で勝負する不動産業から、計画・設計で勝負する不動産業へ。

この転換についていけるかどうかが、明暗を分けます。

③ 不動産業者の二極化が、一気に進む

金利のある世界では、不動産業者の差が極端に表れます。

回転率を重視し、在庫日数を数値で管理し、利益ではなくキャッシュフローを見て経営している会社はあります。

こうした会社は、金利上昇局面でも比較的冷静に対応できます。

一方で、

・経験と勘に頼った仕入れ
・含み益があるから大丈夫という判断
・「そのうち売れるだろう」という楽観

これらを前提にした経営は、規模の大小に関係なく行き詰まります。

重要なのは、会社の大きさではなく数字と時間をどう扱っているかです。

金利のある時代は、不動産業者にとって厳しい反面、本来の経営力が正当に評価される時代でもあります。

淘汰が進む一方で、確実に「選ばれる会社」もはっきりしてきてます。

これからは不動産業界はその分岐点に立つことになるでしょう。

第3章|中小企業にとって「金利のある世界」が意味するもの

金利が上がる影響は、不動産業界だけの話ではありません。
不動産を保有する中小企業の経営そのものに、静かですが確実な変化をもたらします。

その最たるものが、銀行との関係性の変化です。

銀行との関係は、確実に変わる

金利のある世界では、金融機関自身も「余裕のない経営」を迫られます。
調達コストが上がり、貸し倒れリスクへの目線も一段と厳しくなるからです。

これまで一定程度成立していた、

・付き合いを重視した融資判断
・時間をかけて様子を見る再生待ち
・「今回は目をつぶる」という先送り対応

こうした姿勢は、徐々に取られにくくなります。

これから金融機関が強く見るのは、「この会社は何を原資に返済するのか」「将来にわたって安定した回収見込みはあるのか」等を重要視することになります。

という、極めてシンプルで現実的な視点です。

売上や利益の回復を「期待」するのではなく、数字として説明できるかどうかが問われます。

ここで説明が曖昧な企業は、「すぐに問題が起きなくても、支援対象から外れていく」という形で、静かに距離を置かれていきます。

不動産を持つ中小企業ほど、判断を迫られる

多くの中小企業にとって、不動産はこれまで重要な役割を果たしてきました。

自社ビルや工場、倉庫は、信用力の裏付けであり、いざというときの担保であり、最後のセーフティネットでもあったはずです。

ところが金利が上がると、この前提が揺らぎます。

・収益を生まない不動産
・今は使っていない土地や建物
・将来使う「かもしれない」遊休資産

これらは、もはや守ってくれる存在ではなく、財務を重たくする要因として見られるようになります。

特に問題になるのは、不動産を保有していることで借入が増え、その借入がキャッシュフローを圧迫し本業の投資余力を奪っているケースです。

帳簿上は資産が多く見えても、実際の経営は身動きが取れない。
こうした状態に陥る中小企業は、今後確実に増えていきます。

不動産を「持ち続ける」か「動かす」かが経営判断になる

金利ゼロ時代であれば、不動産を持ち続けるという判断は、比較的安全でした。

しかし金利のある世界では、

この不動産は、今後も事業に貢献するのか
それとも、ただコストを生む存在なのか

という問いから、逃げることはできません。

売却、組み替え、活用方法の見直し、
あるいは早めの撤退判断。

不動産は「放置しておくもの」ではなく、
経営判断そのものになりつつあります。

重要なのは、問題が表面化してから動くのではなく、
まだ選択肢が残っている段階で手を打てるかどうかです。

金利のある時代は、中小企業にとって厳しい反面、
経営を立て直すための「整理のタイミング」でもあります。

第4章|金利のある時代に、中小企業・不動産業者が取るべき現実的な選択

金利のある世界は、今までの金融緩和政策によるマイナス金利の状態よりは確かに厳しい環境です。

しかし、見方を変えれば、早く現実を直視し手を打った企業ほど有利になる時代でもあります。

重要なのは、「何とか耐える」ことではありません。

現実的に構造を整理し身軽になることです。

①「守る不動産」と「手放す不動産」を分けて考える

まず必要なのは、不動産を一括りにしないことです。

すべてを守る必要はありませんし、すべてを売る必要もありません。

判断基準はシンプルです。

この不動産は、
・今の事業に直接貢献しているか
・キャッシュフローを生んでいるか
・将来の成長戦略と結びついているか

これに明確に「YES」と言えない不動産は、保有している理由そのものが曖昧になっています。

金利のある時代では、「とりあえず持っておく」は、「毎月コストを払い続ける」という選択と同義です。

② 不動産の整理は「負け」ではなく、経営判断

多くの中小企業経営者が、不動産の売却や整理に対して
どこか「後ろめたさ」を感じています。

しかし今起きているのは、
事業の失敗ではなく、環境の変化です。

金利ゼロという例外的な時代が終わり、
ビジネスの前提条件が変わっただけ。

であれば、
前提に合わせて資産構成を組み替えるのは、
極めて合理的な経営判断です。

不動産を動かすことで、「借入の圧縮」「資金繰りの改善」「本業への集中」が可能になるケースは、決して少なくありません。

「売る=終わり」ではなく、「次に進むための準備」と捉える視点が重要です。

③ 銀行対応は「お願い」から「設計の説明」へ

これからの金融機関対応で重要なのは、情や付き合いではありません。

必要なのは、

・現状をどう整理するのか
・不動産をどう扱うのか
・返済原資をどう確保するのか

これを構造として説明できることです。

不動産の売却や組み替えを含めた再設計ができている企業は、銀行との対話の質が大きく変わります。

「何とかしてください」ではなく、「この形なら回ります」という説明ができるかどうか。

金利のある世界では、この差が支援の有無を分けます。

④ 早く動いた企業ほど、選択肢は多い

最後に、最も重要なことです。

不動産も、融資も、再建も、
時間が経つほど選択肢は減ります。

まだ余力がある段階であれば、

売却条件の調整
活用方法の検討
金融機関との交渉

すべてにおいて、主導権を持てます。

逆に、資金繰りが詰まってからでは、「選ばされる選択」しか残りません。

金利のある時代は、先送りを許さない一方で、早く動く人には冷静な判断を許してくれる時代でもあります。

第5章|増えるのは「倒産」より「静かな廃業・撤退」

金利のある時代に入ったからといって、企業が次々と派手に倒産していくわけではありません。

実際にこれから増えていくのは、ニュースになるような倒産ではなく、表に出ない「静かな廃業」や「計画的な撤退」です。

経営を無理に続けない、という選択

多くの中小企業経営者が、すでにこうした現実に向き合い始めています。

・後継者がいない
・事業を拡大する体力が残っていない
・無理をしてまで続ける意味を感じなくなった

こうした理由は、珍しいものではありません。

金利が低い時代であれば、多少無理をしてでも「何とか続ける」選択ができました。

しかし金利が上がると、経営を続けるだけでコストが増え、継続か撤退かの判断を先送りするほどリスクが高まります。

その結果、

・今なら整理できる
・今なら関係者に迷惑をかけずに済む
・今なら選択肢が残っている

そう考えて、自ら畳む判断をする企業が増えていくのです。

「静かな廃業」は、逃げではない

ここで強調しておきたいのは、これは決してネガティブな話ではない、という点です。

企業が経営するうえでの資金が尽きてから慌てて倒れるのではなく、余力があるうちに状況を整理し、関係者ときちんと向き合ったうえで区切りをつける。

これは、逃げではなく、極めて合理的な経営判断です。

むしろ、

・限界まで借り続ける
・判断を先延ばしにする
・結果として破綻する

こうした流れのほうが、従業員、取引先、家族に与える影響は大きくなります。

金利のある時代は「撤退戦略」が評価される時代になるかもしれない

金利ゼロ時代は、「続けていること」自体が評価されがちでした。

しかしこれからは、

・いつまで続けるのか
・どこで区切るのか
・どうやって終えるのか

この撤退の設計も、経営力の一部になります。

静かな廃業や事業縮小は、失敗の証ではなく、次の人生や次の事業につながる選択です。

金利のある時代は、無理をしない人、逃げ遅れない人が、結果として一番傷が浅く済む時代でもあります。

第6章|金利のある時代に「残る会社」の共通点

ここまで見てきた通り、金利のある時代は、不動産業界や中小企業にとって決して楽な環境ではありません。

しかし、一方ではすべての会社が苦しくなるわけではないことも、はっきりしています。

最後に、これからの時代でも着実に残っていく会社の共通点を整理しておきます。

規模ではなく、「構造」で勝っている

生き残る会社に共通しているのは、規模の大きさではありません。
大切なのは、経営の構造です。

在庫を最小限に抑え、仕入れから売却までの期間を常に意識し、利益よりもキャッシュフローを優先している。

こうした会社は、金利が上がっても慌てません。

なぜなら、時間とお金を数値で管理しているからです。

借入に過度に依存しない会社は、判断が自由

まず挙げられるのが、借入に依存しすぎていない会社です。

借入が多い会社ほど、「金利上昇=即コスト増」「金融機関の判断=経営判断」になりがちです。

一方で、自己資金比率が高く、借入を「手段」として使っている会社は環境が変わっても冷静に動けます。

売るか、持つか
攻めるか、守るか

こうした判断を、銀行の顔色ではなく、自社の都合で決められる。

これが、金利のある時代における大きな強みです。

独自の特性を持つ会社は、価格競争に巻き込まれない

残る会社のもう一つの特徴は、他社と簡単に比較されない「独自性」を持っていることです。

たとえば、

・特殊な不動産に強い
・扱いにくい案件を引き受けられる
・特定の分野に専門特化している

こうした会社は、価格だけで選ばれません。

金利が上がると、「安さ」だけで仕事を取る会社ほど苦しくなります。

一方、「この会社でなければ難しい」そう思われる立場にある会社は、環境が厳しくなっても仕事が途切れにくいのです。

大手企業の下請けに依存しない会社は、振り回されない

もう一つ重要なのが、
特定の大手企業に依存しすぎていないことです。

下請け構造では、

価格決定権がない
条件変更を受け入れざるを得ない
突然仕事が減るリスクがある

こうした不安定さを常に抱えます。

金利のある時代では、
わずかな利益のブレが、
そのまま資金繰りに直結します。

だからこそ、

直接顧客を持っている
自分で仕事を作れる
取引先を分散している

こうした会社は、経営の安定感がまったく違います。

残る会社は「選ばれる側」にいる

まとめると、金利のある時代に残る会社とは、借入に縛られず、他社と比べられにくく、特定の相手に依存しない。

つまり、自分で選択できる立場にいる会社です。

環境が厳しくなるほど、「自由度の高い会社」だけが静かに強くなっていきます。

ここを整えられる会社こそ、これからの時代に、自然と残っていきます。

まとめ|金利は「脅威」ではなく「選別装置」

金利のある世の中は、確かに楽な環境ではありません。
これまで通用してきたやり方が、そのままでは通らなくなる場面も増えていきます。

しかし、見方を変えれば、今起きているのは混乱ではなく整理です。

・無理な拡大
・根拠のない強気
・勢いだけに頼った経営

こうしたものが自然とふるいにかけられ、数字と現実に真摯に向き合ってきた中小企業や不動産業者が、評価されやすい環境へと移り変わっています。

これから問われるのは、どこまで大きくできるかではありません。

どこで引き際を決め、どう次につなげるかです。

・続ける判断
・縮小する判断
・撤退する判断
すべてが経営判断であり、優劣はありません。

金利は、恐れる存在ではなく、経営の前提を見直すためのサイン。

そう捉えられたとき、不動産業界も中小企業も、感情ではなく構造で考える「次の一手」が、自然と見えてくるはずです。

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