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金融緩和政策とコロナ禍で任意売却・競売が減った背景と、今後のリスク・防衛策のお話です

金融緩和政策とコロナ禍で任意売却・競売が減った背景と、今後のリスク・防衛策のお話です

2010年代以降、日本は長期的な金融緩和政策が続いてきました。さらに2020年以降のコロナ禍では、政府・金融機関による前例のない支援策や猶予措置が実施され、不動産市場の破綻件数が一時的に抑えられました。
「任意売却」や「競売」は、住宅ローンや事業ローンの返済が困難になった時に表面化するものですが、ここ数年、その件数が目に見えて減少していたのです。

しかし――それは「リスクがなくなった」のではなく、「時間が止まっていただけ」のケースが少なくありません。
この記事では、

  • 金融緩和とコロナ支援が競売・任意売却を減らした背景
  • 低金利でも増えなかった理由(矛盾のようで矛盾ではない構造)
  • 今後の見通しとリスク
  • そして購入前・破綻前にできる“防衛策”

を、不動産実務の視点から分かりやすく解説します。

競売件数のピークとその後の減少経緯

2009年――リーマン・ショックの影響が日本経済を直撃した年。

この年、不動産の「競売件数」は約6万件を超え、バブル崩壊以降で最大のピークを迎えました。

企業の倒産、住宅ローンの延滞、そして金融機関の不良債権処理。
そのすべてが一気に表面化し、全国の裁判所に“担保不動産の競売申立て”が殺到した時代でした。

しかし、その後の流れは意外なものでした。10年後の2020年代に入ると、競売件数はわずか1万件台まで減少しました。
実にピーク時の約5分の1以下という水準にまで落ち込んでいます。

「なぜ、あれほど多かった競売が、ここまで減ったのか?」「コロナ禍でも競売が急増しなかったのはなぜか?」

そして、「今後、再び増えるリスクはないのか?」

この記事では、2009年のピークから現在に至るまでの競売件数の推移と背景要因を専門的に分析しながら、
・なぜ減少したのか
・どんな政策や環境が影響したのか
・今後の金利動向や経済情勢で何が起こる可能性があるのか
・不動産オーナーや購入希望者が取るべき“防衛策”とは何か

これらを一つひとつ丁寧に整理していきます。

競売が減ったというニュースの裏には、見えないリスクの蓄積と市場構造の変化が潜んでいます。

表面の数字だけで安心せず、次に来る波をどう読むか――。
そのヒントを、この分析から見つけていただければと思います。

不動産競売件数はピーク:2009年(約6万件超)

2008〜2009年のリーマン・ショックの影響で企業倒産や個人の債務滞納、不良債権処理が急増し、2009年には競売・担保不動産の件数が約6万件を超えるほどに膨らみ、債権者・金融機関・裁判所のすべてが“回収モード”に入っていた時期といえます。

競売物件の減少の始まり(2010年代前半)

2010年代前半に入ると、いくつかの要因が同時に作用し、競売件数は急速に減少し始めます。

その背景の一つが、リーマン・ショック後に実施された支援・猶予制度の存在です。

例えば、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(いわゆるモラトリアム法)」が施行され、中小企業の資金繰りを支援するために返済猶予や貸出条件の変更を金融機関に促しました。

これにより、金融機関は「すぐに競売へ進む」という判断を控え、リスケジュールや条件変更による再建支援を選択しやすくなったのです。

競売物件の減少が継続(2010年代中盤〜後半)

2010年代中盤から後半にかけても、競売件数の減少傾向は継続しました。

統計によると、担保不動産競売件数・強制競売件数はいずれも「平成12年度から平成26年度」にかけて約3分の1まで減少したと分析されています。

さらに、実務データでもこの傾向は明確で、2012年度には四半期あたり3,000件を超えていた公告件数が、2021年度にはおよそ1,000件前後まで減少したという報告もあります。

このように、2009年のピーク以降、競売市場は長期的に“右肩下がり”で推移し、金融支援策・任意売却の普及・市場回復など複合的な要因が安定的に作用し続けたことが確認できます。

競売物件の低水準での安定期(2020年代前半)

2020年代前半に入っても、競売件数の減少傾向は続きました。

統計によると、2023年の競売出品数は約1万1,086件まで低下しており、リーマン・ショック直後(2009年)の約6万件超というピーク時と比べると、わずか5分の1以下の水準にまで落ち込んでいます。

2024年には1万1,415件とわずかに増加したものの、依然として過去水準に比べれば非常に低い状態で推移しています。

このような「低水準での安定期」は、長期にわたる金融支援策や低金利政策の継続、任意売却の定着、そして市場価格の底堅さといった複合的な環境要因を反映したものといえます。

つまり、2020年代前半の競売市場は「危機対応から安定維持」へと完全に移行し、急増期のような“回収モード”の姿はもはや見られなくなったのです。

競売物件の減少について詳しくお話します

2010年代前半に入ると、いくつかの要因が同時に作用し、競売件数は急速に減少していきました。その主な背景は次の4点に整理できます。

支援・猶予制度の実施

リーマン・ショック後の資金繰り悪化を受けて、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(通称:モラトリアム法)」が制定されました。

この法律は、中小企業や個人事業主の返済負担を軽減する目的で、返済猶予や貸出条件の変更(リスケジュール)を金融機関に促したものです。

結果として、金融機関が「滞納=即競売」という判断を取らず、条件変更や返済見直しといった再建支援の余地を残すようになりました。

任意売却の浸透

以前は返済困難になると競売に進むケースが大半でしたが、2010年代に入り「任意売却」という手法が広く認知され始めました。

任意売却とは、債務者と債権者が合意の上で、通常の売買形式で不動産を売却する方法です。

競売に比べて売却価格が高くなりやすく、債務者の生活再建にもつながるため、債権者にとっても合理的な回収手段となりました。

このように任意売却が普及したことで、競売に至る前の段階で処理される案件が増加し、結果として競売件数の減少に直結したのです。

金融機関の姿勢変化

金融機関の債権回収スタンスが、リーマン・ショック期の「即回収」から「慎重対応」へと変化しました。

実務現場では「滞納 → リスケ → 任意売却」というプロセスが一般化し、競売申立てまで進まないケースが増えました。

市場環境の改善と物件価格の底堅さ

2010年代以降、日銀による低金利政策と金融緩和が長期化したことで、住宅ローン返済負担が軽減し、延滞や競売に至る案件自体が減少しました。

さらに、不動産価格の下落が限定的となった都市部では、通常売却でも債務返済が可能なケースが増え、競売に頼らず回収できる環境が整いました。

競売件数減少による“影響・注意点”

競売件数の減少は、一見すると不良債権や延滞リスクが解消されたかのように見えますが、数字上の減少=リスク消滅ではありません。

実際には、「競売に至る前に別の手段が採られた」あるいは「一時的に先送りされている」ケースが多く、表面上の減少に過ぎない可能性があります。

特に、任意売却については公式な統計が存在せず、件数を正確に把握することができません。つまり、競売市場には出てこない“債務処理ゾーン”が水面下で広がっているという指摘もあります。

さらに、競売が減少することで、市場に流通する不動産物件の供給が滞り、価格形成の透明性が低下するという副作用も無視できません。

また、長期にわたって競売件数が低水準で推移している裏側では、返済を「何とか耐えてきた」債務者層が潜在的に存在しており、今後の金利上昇や支援制度の終了などをきっかけに、一気に滞納・競売増加へ転じるリスクを内包しています。

つまり、「競売が減った=安心」ではなく、「静かに積み上がるリスクの地層」をどう読み取るかが、これからの不動産・金融市場における重要な視点といえるでしょう。

「低金利なのに競売は増えない」は矛盾か? — 実は“時間差”がある

低金利政策は、確かに借り換えや返済負担の軽減を通じて、延滞や競売を抑える効果をもたらします。

しかし同時に、「リスクを表面化させずに先送りする」側面も持ち合わせています。
そのため、“低金利=安心”とは限らず、むしろ将来的な競売増加の地ならしになることさえあるのです。

① 価格下落リスクの顕在化(資産価値の変化)

低金利が続くと資金が市場に流れ込み、不動産価格が上昇しやすくなります。

しかし、金利が上昇軌道に入った瞬間、価格調整と返済負担増が同時に発生します。

たとえば住宅ローン金利がわずかに上昇するだけでも、返済額が膨らみ、売却価格が下がれば「売っても債務が残る」=実質的な債務超過に陥る層が出てきます。

実際、2023〜2024年にかけて競売出品数が微増に転じたというデータは、その“時間差リスク”の兆候ともいえます。

② 金融機関の姿勢変化(猶予は万能ではない)

モラトリアム法やコロナ対応融資など、これまでの金融支援は「一時的な延命策」として機能してきました。

しかし、日本銀行の金融引き締め(利上げ)や長期金利上昇が明確化すると、金融機関も再び「債権回収モード」へと舵を切る可能性があります。

猶予期間が終了した瞬間、これまで表に出てこなかった滞納・債務超過が一挙に顕在化し、競売が増加するリスクが高まります

③ 投資用不動産・サブプライム層の脆弱性

近年は、低金利を背景に投資用ローンを活用したオーナー層が増加しました。

しかし、これらの層はレバレッジ(借入比率)が高く、家賃下落や空室増加が起きると資金繰りが一気に悪化します。

特に、サブリースや利回り重視の物件を抱える投資家は、返済原資が細ることで競売に至るケースが増加しやすく、実際に一部エリアでは低金利下でも競売比率が上昇傾向を示しています

ポイント:低金利は“静かなリスク増殖期”

低金利は市場の安定を支える一方で、「返済を先送りし、リスクを積み上げる」期間でもあります。

その結果、政策転換や景気後退といった小さなきっかけで、時間差的に競売や債務問題が噴き出す構造が生まれます。

言い換えれば、低金利期は「平穏」ではなく、「静かに膨らむリスクの潜伏期」です。

この視点を持つことが、これからの不動産・金融動向を読む上で欠かせません。

今後、競売物件は増加するのか?

2024年以降、実務現場では競売申立て件数が微増に転じる兆しが見え始めています。

特に目立つのは、郊外や投資用不動産での延滞・売却動きです。背景には、低金利期に組まれた高齢者ローンやフルローン案件の借り換えが難しい状況があり、金融機関も慎重な姿勢を強めています。

言い換えれば、「支援終了」→「返済再開」→「延滞顕在化」という流れが既に始まっており、競売出品数は長期的な低下傾向を経て、2023〜2024年にかけて微増(15年ぶりの増加)に転じました。

これは、金利環境の変化や不動産価格調整の影響によるものと考えられます。

ただし、この動きには地域差・物件種別差が大きい点も重要です。
都市圏の一戸建てや一部の投資用物件で特に増加傾向が見られ、郊外・地方の住宅市場ではまだ安定的な傾向が続いています。

補足として、競売統計や月次データはネット上でも公開されており、地域別・物件種別ごとの動きを確認することも可能です

今後の競売・債務リスク予測

🟢 短期(〜1年)

・支援策終了・金利上昇により、任意売却や競売件数が増加する可能性が高い。

・変動金利利用者や投資家ローンを組んだ高レバレッジ層は特にリスクが顕在化しやすい。

・実務上、2024年以降に見られる延滞顕在化の兆しは、この短期リスクを反映している。

🟡 中期(1〜3年)

・地方や人口減少エリアでは、不動産価格下落に伴い債務超過が発生する可能性。

・任意売却を希望する債務者が急増し、市場での処理件数や価格調整が課題となる。

・金融機関も回収・リスケ対応に追われる状況が想定される。

🔴 長期(3年以上)

・不動産市場の二極化が進行:駅近・都心部は価格高値を維持する一方、郊外・地方は下落傾向が続く。

・金利上昇が長期化すれば、返済負担増+価格下落の複合リスクにより、破綻・競売増加の可能性がさらに拡大。

・投資用不動産や高レバレッジ案件におけるリスクは、長期的な市場の二極化と連動して顕在化する。

このように、短期は金利・支援終了による即時的リスク、中期は地域別価格下落による債務超過リスク、長期は市場二極化+金利上昇による破綻リスクという形で、リスクの時間軸を整理することが重要です。

不動産を所有している際の防衛策(任意売却・破産回避)

将来的に不動産競売が増加する可能性は十分にあります。

そのような状況で不動産を所有している人々はどのような対応策を取れば良いのでしょうか。

早期相談が最重要

・延滞や返済遅延が発生したら、まず金融機関や専門家(弁護士・司法書士・任意売却業者)に相談。

・早めに相談することで、任意売却・リスケ・公的支援など、選択肢の幅を広げることが可能

リスケ交渉・公的支援の活用

返済条件の変更や猶予、補助金・貸付制度など、利用可能な支援策は全て検討。

●支援策の特例:

・住宅金融支援機構の返済特例

・支援策を組み合わせることで、破綻・競売のリスクを先送り・軽減できる

任意売却の戦略的活用

●競売に進む前に任意売却を行うことで:

・債務残高の圧縮

・引越し費用の確保

・信用情報への影響の最小化

●戦略的に進めるには:

・価格設定・仲介戦略の計画

・債権者との合意形成

・専門業者による市場性評価と最適売却の実施

任意売却は債務者・債権者双方にメリットのある手法

生活再建計画の作成

・売却後の残債処理・税務・社会保障・住居確保まで含めた再建計画を策定。

・法的整理(破産・個人再生など)も選択肢の一つとして、専門家と相談しながら検討することが重要。

まとめ

リーマン・ショック以降の金融緩和、そしてコロナ禍での大規模支援策により、競売件数や任意売却件数は一時的に減少しました。

数字だけを見ると「リスクが低下した」と誤解しやすい状況ですが、実際には債務問題や市場調整のリスクは先送りされているに過ぎません。

2023〜2024年には、すでに都市圏の一部や投資用不動産で延滞・任意売却・競売の兆しが見え始めています。

これは、低金利期に組まれた高レバレッジローンや高齢ローン、支援終了による返済再開などが契機となった、潜在的リスクの顕在化です。

今後は、金利変動や不動産価格調整が進む中で、短期的には返済負担増・延滞増加、中期的には地方・郊外の債務超過、長期的には市場二極化による破綻リスク拡大といった段階的なリスクが想定されます。

この状況下での現実的な防衛策は以下の3点に集約できます。

・破綻リスクがある人は「早期相談」

延滞・返済遅延の前に専門家や金融機関に相談することで、任意売却・リスケ・公的支援などの選択肢を最大化できる。

投資・購入を検討している人は「登記と競売情報の事前チェック」

潜在的な延滞や差押え物件の把握は、購入リスクを最小化し、投資戦略に不可欠。

余裕資金と出口戦略を確保する

返済負担増や価格下落リスクに備え、現金余力と売却・処分のシナリオを事前に構築することが重要。

🔹 結論

金融支援や低金利で「表面上は穏やか」に見える市場も、潜在的なリスクは依然として存在しています。
任意売却・競売のデータや市場動向を注意深く観察し、早期対応・情報収集・戦略的行動を組み合わせることが、これからの不動産市場で資産を守り抜くための現実的かつ最も有効な手段です。

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