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日産970億円本社売却は正解だったのか?リースバックの財務効果と中小企業が安易に真似してはいけない理由

日産970億円本社売却は正解だったのか?リースバックの財務効果と中小企業が安易に真似してはいけない理由

2025年11月、日産自動車が横浜にあるグローバル本社ビルを約970億円で売却し、20年間のリースバックで引き続き使うことを発表しました。

本社ビル売却に伴い今期(2026年3月期)に約739億円の固定資産売却益を特別利益として計上する見込みと報じられています。

こちらのブログでは、この大型取引を出発点に

(1)リースバックの仕組み

(2)会計・税務上の扱い(特にIFRS対応のポイント)

(3)日産の財務改善への効能と限界

(4)中小企業が同様の手法を採る際のメリット・リスク・実務上の注意点

(5)具体的に検討すべきチェックリスト

これらの内容を分かりやすく解説します。

廃業・事業再生コンサルや経営再建に関わる方にとって即使える観点も多く盛り込みます。

リースバックとは?――「資産を手放しても、事業は止めない」

リースバックとは、企業や個人が自ら所有している不動産などの資産を第3者に売却し、同時にその不動産を賃貸借契約によって借り直し、今まで通り利用し続ける仕組みです。

今回のような本社ビルであれば、所有権は移転するものの、業務拠点としての機能は一切変わらないという点が最大の特徴です。

この手法の最大のメリットは、短期間でまとまった現金を確保できることです。

借入ではないため財務指標を一時的に改善しやすく、金融機関との関係整理や事業再構築の時間を稼ぐことができます。

一方で、当然ながら売却後は「家賃」という形で継続的な支出が発生します。

「資産を守るための手段」ではなく、「事業を続けるための時間を買う手段」

リースバックは「資産を守るための手段」ではなく「事業を続けるための時間を買う手段」と捉えると、非常に分かりやすい選択肢です。

本来のリースバックは、
・事業がまだ回復可能
・拠点を簡単に移せない
・資産はあるが資金繰りが詰まっている

こうした“踏ん張りどころ”の局面で使われる戦略的な資金調達方法です。

会計処理の要点―「売ったのに、消えない資産?」

近年、リースバックを語るうえで避けて通れないのが、リース会計ルールの変更です。
IFRS第16号の導入以降、この取引は「売却したら終わり」という単純な話ではなくなりました。

まず最初の分かれ道は、その取引が会計上“売却”と認められるかどうか。

もし、所有権や支配が実質的に買主へ移転していると判断されれば、会計上は「売却」として処理されます。

この場合、売却損益を認識すると同時に、売却後に使い続ける部分については、借手として

・使用権資産(Right-of-Use Asset)

・リース負債

を貸借対照表に計上することになります。

一方で、「名義は移ったけど、実態としては資金調達では?」と判断されるケースでは、そもそも売却と認められず、資産が帳簿上に残ることもあります。

この場合、取引全体がファイナンス取引として扱われる可能性があり、思ったほど財務が軽くならない、という結果にもなりかねません。

売却益は“全部が利益”にはならない

ここが、多くの人が誤解しやすいポイントです。

IFRSの実務では、リースバックによる売却益について、「手放した使用権」と「引き続き使う使用権」に分けて考えるという考え方が採られています。

つまり、

・売却によって完全に放棄した部分 → 利益として認識

・リースバックで使い続ける部分 → 繰延べ・相殺

となり、売却益の全額を一気に純利益に計上できるわけではありません。

「970億円売却=そのまま970億円の利益」という単純計算にならないのは、このためです。

会計の結論――“見た目”より“中身”が問われる

会計の視点で見ると、リースバックは確かにキャッシュフローを一時的に改善して表面上の利益を押し上げる効果があります。

ただしその裏側では、固定資産は減る事になり使用権資産とリース負債が新たに計上されるという形で、貸借対照表の構造そのものが組み替えられるのが実情です。

だからこそ、この取引は「決算を良く見せる魔法」ではなく「次の一手を打つための時間稼ぎ」として使われるべきものだと言われることが多くあります。

日産のケース――何が起きて、財務にどう効くのか

今回の日産本社ビルの売却とリースバック。

報道を整理すると、売却額は約970億円、買い手はミンス(敏実)グループなどが出資するSPC。
契約期間は20年のリースバックとされています。

日産は、この本社の売却で得た資金を再建計画に充て、約739億円の固定資産売却益を特別利益として計上する見込みだと報じられています。

数字だけを見るとインパクトは大きいですが、ここから先が“読み解きどころ”です。

日産にとってのメリット――「今をしのぐ力」は確実に得た

まず最大のメリットは、やはり即時の資金調達です。
970億円という現金は、借入金の返済、再建費用・設備や体制の組み替えなど、時間との勝負になっている局面では極めて大きな意味を持ちます。

次に、損益面での一時的な改善。
特別利益が計上されることで、当期の赤字幅は圧縮され、市場や金融機関に対して「手を打っている」「何もせずに沈んでいるわけではない」というメッセージを出すことができます。

そしてもう一つ、不動産屋として注目したいのが、「聖域だった資産に手を付けた」という発信効果です。

本社ビルは、企業にとって象徴的な存在です。

そこを売却したという事実は、「もう後戻りはしない」「本気で再建に向き合う」という強い意思表示にもなります。

避けて通れないリスクと限界

ただし、本社ビルを売却してリースバックを実行する事は良い話ばかりではありません。

最大のポイントは、20年間続く賃料負担です。

リースバックは、不動産を売却した瞬間に楽になりますが、その後は固定費として家賃がずっとのしかかる構造になります。

業績が順調に回復すれば問題ありませんが、回復が遅れれば、この賃料が営業キャッシュフローをじわじわと圧迫してきます。

また、会計上も注意が必要です。

IFRSの下では、売却益のすべてが即座に純利益になるとは限らず、使用権資産やリース負債が計上されることで「思ったほどバランスシートが軽くならない」という見え方になる可能性もあります。

さらに、心理的な側面。

本社ビルの所有を手放すことに対して、従業員や取引先、株主が少なからず感じる不安はゼロではありません。

もっとも、利用は継続されるため、実務的な混乱は限定的でしょう。

これは「延命」ではなく「時間を買う判断」

総じて言えるのは、今回の日産の判断は、「短期の資金・損益改善」と「長期のコスト負担」を天秤にかけたうえでの決断だということです。

会社規模が大きく、債務も重い企業にとって、これだけの現金を一気に確保し、再編や投資に回せる意味は非常に大きいことです。

ただし、これは、「これで安泰」という話ではなく「次の一手を成功させる前提で成り立つ選択」です。

不動産の世界で言えば、不動産売却そのものがゴールではなく、売却後に何をするかがすべて。

日産のセール&リースバックも、まさにそこが問われています。

中小企業がリースバックを考えるときの実務判断

―結論から言うと「条件次第でアリ、勢いではナシ」

まず結論から。中小企業でも、条件が整えばセール&リースバックは有効な選択肢になり得ます。

ただし、安易に手を出すと、後戻りできないキャッシュフロー悪化を招く危険もあります。

この取引は、「資金繰りを立て直すための一手」であって、「困ったときの万能薬」ではありません。

中小企業にとってのメリット―“今を乗り切る力”は確かにある

1つ目は、即時の資金調達。
不動産を売却することで、借入金の返済や運転資金に充てることができ、資金ショートの回避や、金融機関との交渉時間を確保しやすくなります。

2つ目は、賃料の損金算入。
売却後に支払う賃料は、原則として経費として処理できるため、利益が出るタイミングと税負担のバランスを調整しやすくなる点は、実務上のメリットです。

3つ目は、資産管理コストの軽減。
固定資産税や大規模修繕の負担がなくなる、または軽くなるケースもあります。

ただし、ここは契約次第なので、「修繕は誰が負担するのか」「原状回復の範囲はどこまでか」といった条項の確認は必須です。

ここを見誤ると一気に苦しくなる

最大のリスクは、賃料という固定費が永続的に残ることです。

不動産売却で得たキャッシュを「とりあえず回す」「穴埋めに使い切る」という形で消費してしまうと、数年後、賃料だけが重くのしかかり、以前より資金繰りが悪化するケースは珍しくありません。

次に、金融機関との関係。

担保にしていた不動産を手放すことで、将来の融資条件が厳しくなったり、既存借入の契約条項(コベナンツ)に影響が出ることもあります。「売ってから考える」は、かなり危険です。

さらに、会計・税務の複雑に。

不動産の売却益が、そのまま利益になるとは限らず、繰延べ処理や使用権資産の計上、税務上の扱いなど、専門的な判断が必要になります。

当初、想像していたよりも「決算が良くならない」というのは実務ではよくある話です。

判断基準はここ

中小企業がリースバックを検討していいのは「売却後の資金使途が明確」「賃料を払っても事業が回る見込みがある」「立て直しのストーリー」が描けている、この3つがそろっている場合だけです。

逆に、「とにかく現金が欲しい」「今月を越えれば何とかなる気がする」という状態なら、一度立ち止まった方がいいでしょう。

リースバックは、覚悟を決めた経営判断にはなるが「逃げ道にはならない」それが、現場で数多く見てきた結論です。

中小企業がリースバックを実行する際のチェックリスト

交渉に入る前に、これだけは必ず確認しましょう。

セール&リースバックは、「契約を結んだ瞬間がスタート」であり、一度やったら簡単には元に戻せない不動産取引です。

だからこそ、交渉に入る前に、最低限ここは押さえてください。

① 目的の明確化――「何のために売るのか」を数字で決める

まず最初にやるべきは、資金使途の定量化です。

・借入返済にいくら

・運転資金にいくら

・設備投資・整理費用にいくら

不動産の売却金額を「何となく全部使う」のではなく、売却金額 ÷ 使い道をはっきり分けておくことは絶対に必要です。

これが曖昧な取引ほど、後で失敗します。

② 資産の評価―「早く売却できる価格」と「適正価格」は違う

不動産は、評価次第で結果が大きく変わる分野です。

・不動産鑑定

・市場査定(複数社)

最低でもこの2つは取得し、「急いでいる足元」を見られて相場以下で売却するような事は避けましょう。

ここを妥協すると、賃料だけが高い最悪の形になりかねません。

③ リースバック条件の必須確認―ここが地雷原

賃料だけ見て安心するのは危険です。
必ず以下を精査してください。

・賃料(固定か、変動か)

・賃料改定条項

・契約期間と更新条件

・原状回復義務の範囲

・転貸・用途変更の制限

・中途解約条項の有無

「家賃が払えなくなったらどうなるか」を、契約書で確認できない取引は避けましょう。

④ 会計・税務シミュレーション――5年、10年で見る

ここは必須です。

・売却益はいつ、どれくらい利益になるのか

・税金はいつ、いくら発生するのか

・賃料支払いがキャッシュフローにどう影響するのか

5年・10年のシナリオを作り、会計士・税理士と一緒に数字で確認してください。

「思ったより残らなかった」は、後からでは取り返せません。

⑤ 金融機関との調整――事後報告はNG

担保に入っている不動産なら「担保抹消」「再設定」「借入条件やコベナンツへの影響」これらを必ず事前に金融機関と調整します。

勝手に不動産を売却してからの相談は信用を一気に失います。

⑥ 代替案の比較――他の選択肢と必ず比べる

リースバックだけが正解とは限りません。

・不動産担保融資

・リファイナンス

・敷地や建物の一部売却

総コスト(利息+賃料+制約)で比較し「一番マシな選択」を選ぶ視点が重要です。

⑦ 契約書レビュー―弁護士チェックは保険ではない

1. 賃料滞納時の対応(履行遅滞への対処)
賃料の支払いが滞った際のルールを明確化します。

・遅延損害金: 支払期日を過ぎた場合に課すペナルティ(年率14.6%など)を規定。

・催告手順: 書面による督促の方法と、支払猶予期間の定めの明文化。

2. 契約解除条件(信頼関係の破壊)
どのような事態に至った場合に契約を終了させるかを定義します。

・解除要件: 「○ヶ月分以上の賃料滞納」や「公序良俗に反する使用」など、契約を継続し難い重大な背信行為があった場合の即時解除条項。

・明渡義務: 解除後の原状回復義務および、退去がスムーズに行われない場合の違約罰。

3. 将来の再取得オプション(買戻権・優先交渉権)
将来的に物件を買い戻す、あるいは再び所有権を得るための権利を確保します。

・買戻特約または売買予約: 一定期間内に、あらかじめ定めた価格で買い戻すことができる権利。

・優先交渉権: 相手方が第三者に売却しようとする際、同条件で優先的に買い取ることができる権利の付与。

4. リーガルチェックの重要性
これらは単なる約束事ではなく、法的な有効性(対抗力)を持たせる必要があります。

ポイント: 知人間での取引は、往々にして「言った・言わない」のトラブルになりやすく、一度こじれると修復が困難です。第3者である弁護士によるリーガルチェックを通すことで、「お互いの権利を守るための公正な手続き」という共通認識を持たせることができ、結果として長期的な良好な関係を維持することに繋がります。

⑧ 実行後モニタリング―やって終わりではない

不動産を売却した後は「所有者」から「賃借人」へと立場が変わるため、以下の2点に対する備えが必須です。

1. 賃料高騰リスクへの備え(コスト増への対応)
市場価格との連動や更新時の賃料増額により、収益が圧迫されるリスクです。

・賃料キャップの交渉: 契約時に「賃料増額幅の上限(例:前回賃料の◯%以内)」をあらかじめ設定しておく。

・中途解約権の確保: 賃料が想定を超えた場合、早期に退去してより安価なオフィス・工場へ移転できるよう、違約金の減免や予告期間の短縮を盛り込んでおく。

2. 業績悪化リスクへの備え(支払い不能への対応)
売上の減少により、固定費化した賃料が経営を圧迫するリスクです。

・転貸(サブリース)権の保持: 自社で使い続けるのが困難になった際、スペースの一部または全部を第三者に貸し出し、賃料負担を軽減できるようにしておく。

・買戻権(コールオプション)の戦略的活用: 資金に余裕がある時期に買い戻す権利を確保し、低利の融資に切り替えることで、月々のキャッシュアウトをコントロールする。

ポイント

リースバックの本質は、資産を「所有」から「利用」に切り替え、「会社を立て直すための時間」を買い戻すことにあります。しかし、その時間は決して無料ではありません。

1. 「本当に他に手はないか」を問う意味
この取引は、資産という「最後の砦」を手放す行為です。以下の代替案を使い切った上での、最終手段であることを確認します。

・低利の公的融資や劣後ローンの活用

・不採算事業の売却・撤退

・遊休資産の部分的な切り売り(全体を売る前の検討)

2. 「静かに首を絞める」リスクの言語化
契約直後はキャッシュが増え、一見「解決」したように見えます。しかし、以下の構造が経営を蝕み始めます。

・固定費の硬直化: 以前は「利益が出なければゼロ」だった不動産コストが、毎月必達の「賃料」に変わる。

・含み益の喪失: 将来のさらなる危機に備えるための「担保」がなくなる。

3. 出口を見据えた「緊急対応プラン」の策定
「時間切れ爆弾」にさせないために、契約時に以下のコンティンジェンシー(不測事態)対応を組み込みます。

・賃料変動への耐性: 市場高騰に備え、賃料改定の幅を一定範囲に制限する「キャップ設定」を行う。

・業績悪化への退路: 「もし払えなくなったら?」を想定し、面積の縮小(一部返還)や、第三者への転貸権を確保し、固定費を変動費化できる余地を残す。

・再取得の権利(コールオプション): 業績回復後に、再び「所有」に戻してコストを抑えるための買戻権を設計しておく。

賃料は「経費」か?売却益は「課税」か?

リースバックの税務について、結論から言います。

1. 家賃は「全額経費」になります
しかし、それは「終わりのない支払い」の始まりです。 減価償却とは違い、家賃は払い続けない限り、その場所に居続けることはできません。

2. 売却益には「法人税」がかかります
手元に残るのは、税金を引かれた後の残額です。 「最後の切り札」を、3割減らしてでも現金化すべき局面か、その見極めがすべてです。

賃料の扱い――原則は「経費」、ただし例外あり

リースバック後に支払う賃料は、原則として税務上の経費(損金)として処理されます。

毎月の支払いが損金算入できるため、利益が出ている会社にとっては、税負担のタイミングを調整できる側面があります。

ただし、ここで油断すると危険です。

契約内容や実態が、「実質的には資金調達」「名ばかりの賃貸で、ファイナンス取引に近い」と判断される場合、賃料の全額がそのまま損金にならないケースもあります。

この場合「利息相当部分」「元本相当部分」といった形で按分処理が求められることがあり、想定していた節税効果が出ない、という事態も起こります。

ここは必ず、税理士と事前に確認してください。

「不動産屋が言ってたから大丈夫」は、税務では通用しません。

売却益の扱い――「出たら課税」が原則

次に売却益。これはシンプルで、原則として課税対象です。

リースバックだからといって、「売却益が非課税になる」という特別扱いは基本的にありません。

ただし、会計上は「売却益の一部が繰り延べられる」「特別利益として計上される」といった処理がされることがあり、会計上の利益計上タイミングと、税務上の課税タイミングがズレるケースがあります。

このズレを理解せずにいると、「利益は出ていないのに、税金だけ払う」という、経営者にとって一番つらい状況になりかねません。

税務の落とし穴――「制度は動く」

リースバックについて、もう一つ、強調しておきたいのは、税務の特例や時限措置は頻繁に変わるという点です。

過去に使えた処理が「今期は使えない」「条件が厳しくなった」ということは、珍しくありません。

だからこそ「最新の税務通達」「会社固有の取引実態」この2つを前提に、個別判断が必要になります。

税金は「後から考えるもの」じゃない

リースバックで一番危険なのは、「売れたあとに税金を考える」ことです。

税務は、契約前に8割決まると言っても言い過ぎではありません。

賃料が経費になるか。売却益がいつ課税されるか。それを踏まえて、手元にいくら残るのか。

ここまで見えたうえで、初めて「やる意味があるかどうか」が判断できます。

リースバックの、よくある「落とし穴」と、その回避法

リースバックは、理屈としては分かりやすい取引です。

それでも失敗が後を絶たないのは、“やってみて初めて見える落とし穴”がいくつもあるからです。

ここでは、現場で本当によく見るポイントを挙げます。

①賃料の将来負担を甘く見る

不動産売却直後の潤沢なキャッシュは、判断を狂わせます。

「これくらいの家賃、今の利益なら余裕だ」――その油断が、数年後の首を絞めます。

1. 「楽観」は捨て、「ストレス」を計算する
10年〜20年スパンのキャッシュフロー表を作成し、あえて最悪のシナリオをぶつけてください。

・売上が30%落ちても、その家賃を払えますか?

・原材料が高騰し、利益率が下がっても耐えられますか?

2. 「固定費」という名の時限爆弾
所有していれば「調整」できたコストが、契約後は1円も負けてもらえない「絶対の固定費」に変わります。売却で得た資金は、この重くなった固定費を上回る利益を生むための「変革」に投じなければなりません。

②担保を失い、追加融資が詰む

不動産を売却するということは、銀行に対する「最強のカード(担保)」を捨てることを意味します。

◆銀行の態度は一変する
「不動産があるから貸していた」銀行にとって、売却後の会社は丸裸の状態です。

・融資の拒絶: 「担保がないので、これ以上の支援は無理です」という宣告。

・条件の悪化: 金利の大幅な引き上げや、厳しい財務制限条項(コベナンツ)の追加。

◆回避法:売却前に「その後の世界」を確定させる
ハンコを押す前に、金融機関と以下の3点を事前協議し、言語化しておくことが必須です。

・借入余地の確認: 資産が消えた後、事業性だけでいくら借りられるか。

・条件の据え置き: 既存借入の金利や返済猶予が維持されるか。

・コベナンツの調整: 資産売却による財務指針の変化が、契約違反にならないか。

「売って現金が入るから大丈夫」は、素人の発想です。 プロは「売った後に、銀行がそっぽを向かないか」までをセットで設計します。

「担保なしで、今の事業に金をつける価値があるか?」 銀行からこの問いを突きつけられる前に、自ら答えを持っておく必要があります。

③ 会計・税効果が「想定外」に終わるリスク

「売却益で赤字を消せる」「賃料で節税できる」という計算は、会計基準の壁にぶつかり、脆く崩れることがあります。

1. 「売った」ことにならないリスク
特に、IFRS(国際財務報告基準)や、日本基準でも「ファイナンス・リース」と判定された場合、会計上の扱いは残酷です。

・売却益の繰延: 利益を一括で計上できず、数年間に分けてチビチビとしか出せない。

・損金算入の制限: 支払賃料が「元本返済」と「利息」に分解され、全額が単純な経費(損金)として認められない。

2. 「見た目」が良くならない
オフバランス化(資産を消す)して財務指標を良くするつもりが、「リース負債」として結局B/Sに残ってしまい、自己資本比率が改善しないケースも珍しくありません。

回避法:決算書の「着地」を事前に描く
契約書を作る前に、会計士・税理士を交えたシミュレーションが必須です。

・IFRS vs 日本基準: どちらの基準で、どう見えるか。

・P/L・B/Sへの影響: 利益の出方だけでなく、債務としてどう評価されるか。

④ 買い手の正体を見誤り、「出口」を失うリスク

「高く買ってくれるなら誰でもいい」――その考えが、最も危険な後悔を招きます。売却した瞬間、あなたは「城主」から「店借人」になり、相手の顔色を伺う立場に変わるからです。

1. 相手によって変わる「数年後の景色」
・短期回収型ファンド: 数年で転売される可能性が高く、管理が雑だったり、出口でさらに条件の厳しい買い手へ渡されたりするリスクがあります。

・長期保有型(事業会社・REIT): 安定はしますが、契約の柔軟性が低く、将来の買戻し交渉に一切応じないケースも多いです。

2. 「安かろう、悪かろう」ならぬ「高かろう、怖かろう」
提示価格が高い買い手ほど、その分を「高い賃料」や「厳しい更新条件」で回収しようとします。

・交渉の断絶: 業績悪化時の賃料減額交渉に、一切応じない。

・管理の質の低下: 修繕費を渋り、建物の資産価値や使い勝手を損なう。

回避法:契約前に「相手の素顔」を剥ぐ「条件(価格)」だけで選ばず、以下を必ず精査してください。

・属性と実績: 過去に同じような物件をどう運営し、何年で手放しているか。

・管理方針: トラブル時の窓口は誰か、柔軟なコミュニケーションが可能か。

・特約の確保: 「将来の買戻し優先権(コールオプション)」や「賃料改定のルール」を、相手がどこまで受け入れるか。

失敗するパターンは、だいたい似ている

失敗の原因は、常に共通しています。

「楽観的に考え、事前確認を省き、急ぎすぎた」。

この手法は、落とし穴を一つずつ潰した「知っている人」だけが安全に使える道具です。

だからこそ、「リースバックをやりましょう」より先に、必ずこう問いかけます。

「本当に、他に手はありませんか?」

その慎重さの先にしか、この劇薬を「再起の特効薬」に変える道はないからです。

ケーススタディ:簡易キャッシュフローモデル

資金繰りが厳しくなったとき、経営者の前に現れる選択肢のひとつが「リースバック」です。
本社や工場といった不動産を売却し、同時に賃借することで、まとまった現金を一気に手に入れる。

この仕組みは、数字だけを見ると非常に魅力的に映ります。

決算は改善し、借入も減り、「これで一息つける」と感じる場面も少なくありません。

しかし、不動産とお金は、時間軸を変えるとまったく違う顔を見せます。

短期では救いに見えた取引が、中長期では経営をじわじわと締め上げる固定費になることもある。

現場で多くの事例を見ていると、この“見え方のズレ”こそが最大の落とし穴だと感じます。

前提条件(ある中小企業の本社兼工場)

資金繰りが厳しくなったとき、経営者の前に現れる選択肢のひとつが「リースバック」です。

本社や工場といった不動産を売却し、同時に賃借することで、まとまった現金を一気に手に入る事になります。

この仕組みは、数字だけを見ると非常に魅力的に映ります。

決算上では改善し、借入も減り「これで一息つける」と感じる場面も少なくありません。

しかし、不動産とお金は時間軸を変えるとまったく違う顔を見せます。

短期では救いに見えた取引が、中長期では経営をじわじわと締め上げる固定費になることもあります。

現場で多くの事例を見ていると、この“見え方のズレ”こそが最大の落とし穴だと感じます。

短期(実行直後〜数年):数字は一気に良く見える

不動産を売却すると、目に見える形で状況が好転します。

たとえば、売却によって手元に1,000万円の現金が入る。
その資金で既存の借入を返済すれば、毎月の返済額や利息負担は確実に軽くなります。資金繰り表も改善し、「とりあえず当面は回る」という感覚を持ちやすくなります。

決算書上でも変化ははっきり表れます。
帳簿価格との差額として750の特別利益が計上され、赤字だった決算が黒字に転じることも珍しくありません。自己資本比率が改善し、財務内容が一時的に健全化したように見えます。

この段階では、キャッシュフローは改善し、財務内容も数字の上では好転し、「思い切って売却して正解だった」「これでひと安心だ」という空気が社内や家族の間に広がりやすくなります。

しかし、実務の現場ではここで安心してしまうケースが非常に多いのが現実です。

不動産売却による改善は、あくまで“一度きり”の効果であり、事業そのものの収益力が回復したわけではありません。

それにもかかわらず、この一時的な安心感が、その後に必要な構造的な対策や次の一手を遅らせてしまうことがあります。

売却は「終わり」ではなく、「次の判断をするための時間を買った行為」にすぎません。

このタイミングをどう使うかで、その後の明暗は大きく分かれていきます。

中期:賃料という固定費が効き始める

一方で、売却と同時に始まるのが賃料支払いです

・年間賃料:40万円

・利益が出ている間は吸収できる

ただし、売上が伸びなかったり利益率が落ちたりすると賃料はじわじわと重い固定費になります。

長期(20年):累積で見ると景色が変わる

20年間の賃料支払いを単純合計すると、40 × 20年 = 800(現金流出)でインフレ連動で増額すれば、実際の負担はさらに大きくなります。

売却時に得た1,000の現金も「借入返済」「運転資金」「再建費用」として使われ、やがて底を突きます。

その後に残るのは、毎年必ず払わなければならない賃料です。

このモデルから分かること

このケースから見えるのは、とてもシンプルな事実です。

短期的には資金繰りは確実に楽になり利益も出たように見えますが、長期的には賃料という固定費が積み上がり、キャッシュフロー管理を誤ると破綻リスクが高まります。

つまりリースバックは、「短期の改善」と「長期の負担」を交換する取引だということです。

数字は嘘をつかない

リースバックが怖いのは、「最初の数字があまりにも綺麗に見える」点です。

不動産を売却した後の1年後・5年後・10年後、そして、賃貸借契約満了時の時間軸の数字を、必ず並べて比較する必要があります。

・短期だけ見れば、ほとんどの案件は「成功」に見える。

・長期まで見て初めて、「やっていいかどうか」が分かる。

ここまで読んだ方なら、もうお気づきだと思います。

リースバックは、理解した人だけが使える、かなり尖った道具です。

代替案の検討――中小企業が考えるべき他の選択肢

リースバックは確かに即効性のある手段です。

ただし、それだけが答えではありません。

実際には、以下のような選択肢を並べたうえで、「一番適している方法」を選ぶという判断が現実的です。

不動産の1部分売却――“全部売らない”という発想

本社や工場の敷地が広い場合、分筆して一部だけを売却するという選択肢があります。

・必要な建物や動線は残す

・使っていない敷地だけを現金化する

これにより、

・重要拠点は自社で保持

・賃料負担を発生させずに流動性を確保

というバランスの取れた形が取れることもあります。

不動産の全てを売る前に、「本当に必要な部分はどこか」を見極める価値はあります。

不動産担保融資の借換え――短期資金なら有力

短期的な資金繰り対策であれば、不動産担保融資の借換えが最もコストを抑えられるケースも多い。

・金利が賃料より低い

・所有権を維持できる

・将来の選択肢を残せる

という点では、非常に堅実です。

「売らずに済むなら、その方がいい」というのは、実際の現場ではよくある結論です。

資産流動化(REIT・SPC等)――中級者向けの手段

規模や条件が合えば、REITやSPCなどを使った資産流動化も選択肢になります。

・専門業者と組んで資産価値を引き出す

・単純売却より条件が柔軟になる場合もある

ただし、スキームが複雑で手数料や調整コストがかかるため、専門家チームを組める体制が前提になります。

内部改善+外部支援――「売らない」再建

意外と見落とされがちですが、

・コスト構造の見直し

・債務条件の調整

・私的整理やリスケ

こうした内部改善と外部支援の組み合わせで、不動産を売らずに資金ショートを回避できるケースもあります。

時間はかかりますが、長期的には一番傷が浅い場合も少なくありません。

まとめ――セール&リースバックは「時間を買う」判断

日産の本社ビル売却は、短期的な資金確保と当期損益の改善を目的とした点で、合理的な施策と言えます。
970億円という現金を確保し、再建計画に充てる判断自体は、規模の大きな企業にとって現実的な選択でした。

ただし、この手法は長期の賃料負担と会計・税務上の扱いを正確に見積もらない限り、「財務改善が恒久的に続く」とは言えません。

これは日産のような大企業だけでなく、中小企業がセール&リースバックを検討する際にも、まったく同じことが当てはまります。

条件次第では有効な手段になり得ますが、成功するかどうかは、実行前の準備でほぼ決まります。

最低限、次の4点は欠かせません。

(A)目的の明確化
─ 何のために売るのか、資金使途を数字で決めること

(B)長期キャッシュフローのシミュレーション
─ 10年、20年先まで賃料を含めて耐えられるかを見ること

(C)会計・税務の事前確認
─ 売却益と賃料が「どう見えるか」を専門家と確認すること

(D)金融機関との調整
─ 担保・借入条件・信用への影響を事前に整理すること

リースバックは、短期の“見かけの利益”を作る道具ではありませんので使い方を誤れば、数年後に重たい固定費だけが残ることもあります。

だからこそ、目先の数字に飛びつかず、将来の負担を正面から見据えた冷静な判断が必要です。

不動産を売ること自体が目的になった瞬間、その判断は危うくなります。

本当に問われるのは「売ったあと、どう生き残るか」という事で、リースバックは、その覚悟があるときにだけ使うべき手段です。

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