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不動産価格が上がっているのに、なぜ競売が増えるのか?金融緩和が生んだ「融資ありき」の社会と、これから懸念されるペアローン問題

不動産価格が上がっているのに、なぜ競売が増えるのか?金融緩和が生んだ「融資ありき」の社会と、これから懸念されるペアローン問題

はじめに

不動産価格が上昇していると報じられる一方で、不動産競売の件数は増加傾向を示しています。

さらに、住宅ローンの返済が困難になった場合の選択肢として「任意売却」という方法も、以前より知られるようになりました。それにもかかわらず、なぜ競売に至る不動産が増えているのでしょうか。

不動産価格が上がっているのであれば、返済が苦しくなる前に売却し、借入金を返済すればよいのではないか。そう考える方もいるでしょう。

結論:不動産価格が上昇しているのに、なぜ競売が発生するのか?

結論からいえば、不動産価格の上昇と所有者が借入金を返済できることは別問題です。

低金利と融資を前提とした不動産取得が広がるなかで、返済能力よりも借入可能額を重視した購入が行われていれば、価格が高い局面でも返済困難に陥る人は出てきます。

そして、通常売却や任意売却という選択肢があっても、本人が早い段階で売却を決断できるとは限りません。滞納の進行、残債と売却価格の関係、金融機関との交渉、家族間の事情などが重なれば、売却できるはずの不動産が競売手続きへ進んでしまうことがあります。

私は、この問題を単に「住宅ローンを返せなくなった人の問題」として捉えるべきではないと考えています。

金融緩和によって融資を受けやすい環境が続き、不動産価格の上昇が資産価値の上昇として語られる一方、借入金の返済という現実が後回しになっていなかったか。

今後は、夫婦それぞれが住宅ローンを組むペアローンについても、返済が行き詰まるケースが増える可能性を考えておく必要があります。

この記事では、競売件数の動向を確認したうえで、不動産価格が上がっているのになぜ競売が発生するのか、任意売却があるのになぜ競売を避けられないのか、そして今後どのような問題が表面化する可能性があるのかを、不動産実務の視点から解説します。

1.不動産価格が上がっているのに、なぜ競売が増えているのか

まず、近年の競売市場について、公開されているデータを確認してみましょう。

一般社団法人不動産競売流通協会(FKR)の集計によると、競売物件の出品数は次のように推移しています。

競売物件の出品数

2024年・・・11,415件

2025年・・・12,382件

2025年の出品数は前年から967件増加し、2年連続の増加となりました。

また、全国競売評価ネットワークが公表したデータでは、全国の競売開札件数は2022年度の11,677件から、2023年度は11,875件、2024年度は12,846件へと増えています。

ただし、ここで注意したいのは、出品数、開札件数、裁判所が新たに受け付けた競売事件数は、それぞれ集計方法や対象が異なるという点です。異なる統計をそのまま同じ数字として比較することはできません。

それでも、複数の集計で近年の競売市場に増加傾向が見られることは、注目すべき変化です。

一方、住宅やマンションの価格については、上昇が続いている地域がある一方で、地域・物件・価格帯による違いもあります。
「不動産価格が上がっている」という報道だけで、すべての不動産が同じように値上がりしていると考えることはできません。

では、価格が上昇している地域であっても、なぜ競売になるのでしょうか。

理由① 不動産の価格が上がっても、返済に使える現金が増えるわけではない

例えば、住宅ローンの残高が3,500万円ある住宅を考えてみます。

周辺の取引事例などから、売却価格が4,000万円程度になる可能性があるとしましょう。

数字だけを見ると、売却すればローンを返済できそうです。

しかし、実際には売却代金から住宅ローンの返済、仲介手数料、登記関係費用などを支払う必要があります。売却価格がそのまま所有者の手元に残るわけではありません。

また、価格が4,000万円になるという見込みがあっても、実際にその価格で買う人が見つかるとは限りません。

売却には一定の時間がかかることがあります。その間にも、住宅ローンや固定資産税、管理費などの支払いは続きます。

つまり、不動産価格が上がっていても、毎月の返済に必要な現金が不足していれば、生活や事業の資金繰りが行き詰まる可能性があります。

不動産を所有していることと、返済を続けられることは同じではありません。

この違いを理解しておくことが、競売問題を考える出発点になります。

理由② 売却価格が上がっても、借入金を完済できるとは限らない

不動産価格が上昇している地域であっても、購入時の借入額が大きければ、売却価格だけでは借入金を完済できないことがあります。

例えば、購入価格5,000万円の住宅を、諸費用も含めて大きな借入金で取得したケースを考えます。

その後、家計の事情から住宅を売却することになったとしても、売却価格が購入価格と同じ5,000万円になる保証はありません。

仮に4,700万円で売却できたとしても、売却時点のローン残高が4,900万円であれば、売却代金だけでは完済できません。さらに売却費用も必要になります。

このような場合、住宅を売れば問題が解決するとは限りません。

不足する金額を自己資金で補えるのか、金融機関と別途協議できるのか、売却後の債務をどのように返済するのかを検討する必要があります。

住宅ローンの抵当権が設定されている場合、一般的には金融機関の抵当権を抹消して買主に引き渡せるよう、売却と返済の調整が必要です。

不動産の売却価格が上昇していることだけを理由に、所有者が自由に売却できるとは限りません。

理由③ 不動産の価格上昇を前提にした購入が、返済困難につながることがある

不動産価格が上昇している局面では、「今買わなければ、さらに高くなるかもしれない」と考える人が出てきます。

また、金融機関から借入可能額を提示されると、その金額までなら購入しても問題ないと考えてしまうことがあります。

しかし、金融機関が融資可能と判断することと、借りた人が将来にわたって無理なく返済できることは同じではありません。

購入時には安定していた収入が、転職、病気、勤務先の業績悪化、離婚、家族の介護などによって変化することがあります。

変動金利型の住宅ローンであれば、金利環境の変化が将来の返済負担に影響する可能性もあります。

さらに、住宅を購入すると、住宅ローン以外にも固定資産税、修繕費、管理費、駐車場代などの支出が発生します。

購入時の家計には余裕があったとしても、長期間にわたりすべての支出を賄えるとは限りません。

不動産価格が上昇している間は、資産価値の増加によって借入金の問題が目立ちにくいことがあります。しかし、収入が減ったり支出が増えたりすれば、価格上昇だけでは返済問題を解決できません。

2.金融緩和政策によって広がった「融資ありき」の不動産市場

ここで、もう一歩踏み込んで考えてみたいと思います。

日本では長期にわたり低金利環境が続き、金融機関による融資も、企業や個人の経済活動を支える重要な役割を果たしてきました。

金融緩和には、資金調達をしやすくし、設備投資や住宅取得などを支える側面があります。低金利で住宅ローンを組めることは、住宅を購入したい人にとって大きなメリットでもあります。

ただし、低金利で借りられる環境が続くと、不動産市場では借入金を利用して購入することが当たり前になりやすい面もあります。

不動産を購入する際に、手元資金がいくらあるかよりも、いくら融資を受けられるかが重視されるようになれば、購入価格や借入額が膨らむ可能性があります。

金融機関から融資を受けられることが、購入の判断基準になっていないか

例えば、自己資金を十分に用意して購入する人と、借入金を中心に購入する人では、価格下落や収入減少が発生した場合の影響が異なります。

借入金が少なければ、売却価格が下がっても残債を完済できる可能性があります。

一方、購入価格の大部分を借入金で賄っている場合、購入後に価格が下落したり、返済が進む前に売却が必要になったりすると、売却代金だけでは完済できない可能性があります。

この問題は住宅購入に限りません。不動産を担保に借入れを行う事業者や、不動産を仕入れて再販売する会社にも関係します。

金融機関から融資を受けて不動産を取得し、売却によって資金を回収する仕組みは、不動産市場を支える一方、売却が想定どおりに進まなければ資金繰りに影響を与えます。

不動産価格が上がり続けることを前提に借入れを増やしていけば、価格上昇が止まったときや、金利負担が増えたときに問題が表面化するおそれがあります。

金融緩和がすべての原因というわけではない

もちろん、競売が増える原因を金融緩和だけに求めることはできません。

失業や収入減少、病気、離婚、事業不振、相続、税金の滞納、個人間の金銭トラブルなど、競売に至る事情はさまざまです。

また、金融緩和は住宅取得や企業活動を支えた側面もあり、低金利そのものが競売を引き起こすわけではありません。

それでも、長期にわたる低金利環境と融資を活用した不動産取得の広がりが、借入額の大きい家計や事業者を生み出す要因の一つになっていないかは、検討する必要があります。

私が問題だと考えるのは、融資を利用すること自体ではなく、借りられる金額を基準に不動産を取得し、将来の返済リスクや売却時の出口を十分に考えないまま、借入れが積み上がってしまうことです。

3.任意売却が一般的になっているのに、なぜ競売を避けられないのか

住宅ローンの返済が難しくなった場合の選択肢として、任意売却があります。

任意売却とは、住宅ローンなどの返済が困難になった際、金融機関などの債権者と調整し、抵当権などの権利関係を整理しながら不動産を売却する方法です。

競売になる前に任意売却を進められれば、通常の売却に近い形で買主を探せる場合があり、売却条件や引っ越し時期などについても、関係者間で調整できる余地があります。

では、任意売却という方法が知られるようになっているのに、なぜ競売に至るのでしょうか。

理由① 相談する時期が遅い

大きな要因の一つとして考えられるのが、相談の遅れです。

住宅ローンの支払いが苦しくなっても、所有者はすぐに売却を決断できるとは限りません。

「来月には収入が戻るかもしれない」「ボーナスで補えるかもしれない」「家を手放したくない」「家族に知られたくない」と考え、返済を続けようとすることがあります。

その気持ちは理解できます。

しかし、滞納が続けば、金融機関から督促を受け、期限の利益を失い、保証会社による代位弁済や競売の申立てへ進む場合があります。

期限の利益とは、決められた返済期限まで支払いを待ってもらえる権利のことです。契約上の条件に該当すると、この権利を失い、残額の一括返済を求められることがあります。

この段階まで進んでしまうと、売却のための時間が限られ、関係者との調整も難しくなる可能性があります。

任意売却という方法を知っていることと、適切な時期に利用できることは別なのです。

理由② 売却価格だけでは借入金を返済できない

任意売却では、売却代金で住宅ローンを完済できない場合でも、債権者との協議によって売却を進められる可能性があります。

しかし、必ず認められるわけではありません。

債権者は、物件の価格、売却条件、残債、回収見込みなどを踏まえて判断します。複数の抵当権者がいる場合や、差押えなど別の権利関係がある場合には、調整がさらに複雑になることがあります。

また、所有者に売却費用を用意する余裕がない、引っ越し先が決まらない、共有者の協力を得られないなど、売却以外の問題が進行を妨げることもあります。

不動産価格が上昇しているとしても、すべての物件が十分な価格で売れるわけではありません。

地方の戸建て、築年数が古い住宅、権利関係が複雑な不動産、需要が限られる土地などは、売却に時間がかかる場合があります。

理由③ 競売手続きが始まった後では、時間の制約が大きくなる

競売の開始決定が出たからといって、すべてのケースで任意売却が不可能になるわけではありません。

ただし、競売手続きが進むほど、残された時間は短くなります。

裁判所の手続きと並行して売却を進める場合、債権者との調整、買主探し、売買契約、決済などを限られた期間で行わなければならないことがあります。

購入希望者が見つかっても、融資審査や物件調査に時間がかかることがあります。買主の資金計画が整わず、取引が成立しないこともあります。

つまり、任意売却という制度や方法が存在していても、実際に成立させるには時間と関係者の協力が必要なのです。

理由④ 所有者が売却を望んでいない場合もある

不動産は、所有者にとって単なる資産ではありません。

長年暮らしてきた自宅であり、子どもを育てた場所であり、家族の思い出が残る場所でもあります。

そのため、返済が難しくなっていても、売却することを簡単には受け入れられない人もいます。

また、家族に事情を説明できない、離婚協議がまとまらない、共有者と連絡が取れないなど、売却以前に解決しなければならない問題が存在する場合もあります。

こうした事情を無視して「早く売ればよかった」と結論づけることは適切ではありません。

ただ、返済が困難になったときに、売却という選択肢を早い段階で比較検討できる環境は必要です。

4.不動産価格の上昇は、所有者を救うのか

不動産価格の上昇は、所有者にとって有利に働くことがあります。

購入時よりも高い価格で売却できれば、住宅ローンを完済したうえで手元資金を確保できる可能性があります。

しかし、その恩恵を受けられるかどうかは、借入額、売却価格、売却費用、物件の需要、売却のタイミングなどによって異なります。

不動産の価格が上がっていても、売れない不動産はある

不動産価格のニュースでは、都心部のマンションや人気エリアの取引価格が大きく取り上げられることがあります。

しかし、全国すべての不動産が同じように値上がりしているわけではありません。

同じ市内であっても、駅からの距離、建物の状態、接道条件、土地の形状、権利関係などによって需要は異なります。

市場全体の価格が上昇していると聞いても、自分の不動産が同じ割合で値上がりしているとは限りません。

特に、再建築が難しい土地、共有持分だけの不動産、借地権や底地、権利関係が複雑な物件などは、一般的な住宅とは異なる評価や売却方法が必要になることがあります。

不動産の売却価格が高くても、売却までに時間がかかる場合がある

所有者が想定する価格と、実際に買主が購入できる価格には差があることがあります。

また、住宅ローンの返済が厳しい状況では、売却までの期間を長く取れないことがあります。

通常の売却で買主を探す時間があれば条件のよい取引を目指せる可能性があっても、滞納が進み、競売の手続きが進行している場合には、時間の制約が大きくなります。

その意味で、所有者にとって重要なのは、不動産価格が上昇しているかどうかだけではありません。

今の自分の不動産がいくらで売れる可能性があり、借入金をどこまで返済でき、いつまでに売却を成立させる必要があるのか。

この3点を早い段階で把握することが重要です。

5.今後、懸念されるペアローンの返済問題

今後の住宅ローン問題を考えるうえで、私が特に注目しているのがペアローンです。

ペアローンとは、夫婦など2人がそれぞれ住宅ローンを契約し、共同で住宅を購入する仕組みです。各自がローンを組むため、単独で借りる場合よりも大きな金額の住宅を購入できる場合があります。

住宅価格が上昇するなかで、希望する物件を購入するためにペアローンを利用する世帯もあります。

国土交通省も、住宅価格の上昇などを背景として、ペアローンや35年を超える超長期ローンの利用が増加していることを説明しています。

ペアローンは、それ自体が問題のある仕組みというわけではありません。夫婦双方に安定した収入があり、将来の支出を見込んだ返済計画ができていれば、住宅取得の選択肢となります。

ただし、2人の収入を前提に購入予算を組むことには、特有のリスクがあります。

夫婦の収入が両方とも維持されるとは限らない

住宅購入時には、夫婦ともに働き、安定した収入を得ているケースがあります。

しかし、将来にわたって2人の収入が維持されるとは限りません。

出産や育児による休業、転職、病気、介護、勤務時間の短縮、勤務先の業績悪化などによって、一方の収入が減少することがあります。

その場合、世帯収入全体が減るだけでなく、それぞれが契約している住宅ローンの返済負担が家計を圧迫します。

一方の収入が減ったからといって、もう一方のローン契約が自動的に変更されるわけではありません。

ペアローンでは、契約内容や連帯保証の有無などによって責任関係が異なるため、個別の契約確認が必要です。

離婚しても住宅ローンは自動的に消えない

ペアローンの問題は、離婚によって表面化することもあります。

夫婦関係が悪化して別居や離婚に至った場合でも、住宅ローンの契約が自動的に終了するわけではありません。

住宅をどちらが取得するのか、売却するのか、残債をどのように返済するのかを整理する必要があります。

住宅を売却したくても、売却価格が残債を下回っている場合には、不足額をどうするかという問題が残ります。

さらに、双方の合意が得られない、どちらかが住宅に住み続けたい、相手がローン返済に協力しないといった事情が重なれば、売却の調整は難しくなります。

住宅を売ればすべて解決するとは限らず、金融機関との協議や、必要に応じて弁護士などの専門家への相談が必要になる場合があります。

住宅価格が下がらなくても、返済が破綻する可能性はある

ここが重要な点です。

ペアローンの返済問題は、住宅価格が下落した場合だけに発生するわけではありません。

住宅価格が高いままであっても、夫婦の収入が減少し、毎月の返済を続けられなくなれば、返済困難に陥る可能性があります。

仮に住宅を売却できる価格が高かったとしても、売却を決断するまでに時間がかかることがあります。また、残債が売却価格を上回っていれば、不足額を準備する必要があります。

つまり、価格が高いことは、返済問題に対する十分な防波堤にはなりません。

私は今後、住宅価格の高騰、借入額の増加、長期ローンの利用、金利環境の変化、世帯収入の変動が重なることで、ペアローンを組んだ世帯の一部で返済問題が表面化する可能性があると考えています。

ただし、これは今後のリスクについての見通しであり、ペアローン破綻がすでに急増していると断定するものではありません。今後、住宅ローンの滞納や競売の統計、金利の動向、家計の返済負担などを継続して確認する必要があります。

6.住宅ローン問題は、競売になってから考えるものではない

住宅ローンの返済が厳しくなった場合、所有者が最初に考えるのは「何とか返済を続けられないか」ということかもしれません。

その判断自体は自然です。

しかし、返済を続けるために別の借入れを重ねたり、生活費を削り続けたり、家族に事情を話せないまま滞納が進んだりすると、結果的に選択肢が狭まることがあります。

返済条件の変更が可能なのか、売却した場合にどの程度の金額になるのか、売却後に残債が残るのかを、早い段階で整理することが大切です。

① 3つの売却方法(通常売却・任意売却・競売)の違い

不動産を売却する主な方法には、「通常売却」「任意売却」「競売」の3つがあります。

通常売却は、ローンの返済に問題がなく市場で主体的に進める一般的な方法です。

これに対し、任意売却はローンの返済が難しくなった際に債権者の同意を得て市場で買主を探す手法であり、競売はローンの滞納などによって裁判所の手続きに従い強制的に売却される手法を指します。

② 手続きの自由度と制約(通常の売却・任意売却と競売の違い)

それぞれの手続きでは、所有者の関与や価格の決まり方が大きく異なります。

通常売却や任意売却は市場で買主と交渉・調整を行うため一定の裁量が残りますが、競売へ移行すると手続きは裁判所主体となり、所有者の裁量はほとんどありません。

また、任意売却を進めるには債権者との調整や時間的制約といった独自のハードルが存在します。

③ よくある誤解と現実的な判断の重要性

ここで注意したいのは、「任意売却なら必ず競売より高く売れる」「任意売却を選べば残債がなくなる」といった誤解です。

どの方法をとっても残債が残る可能性はあり、状況に応じた見極めが欠かせません。

重要なのは、それぞれの違いを正しく理解し、現在の自分の状況において最も現実的な選択肢を判断することです。

7.差押や競売の通知が届いたら、何を確認すべきか

裁判所から競売開始決定などの通知が届いた場合、まずは書類の内容と手続きの段階を確認する必要があります。

そのうえで、次の点を整理しましょう。

◎ 不動産の登記事項証明書で、抵当権や差押えなどの登記を確認する

◎ 住宅ローンや事業融資などの残債を確認する

◎ 固定資産税や管理費など、ほかに未払いがないか確認する

◎ 不動産の売却可能価格を、物件の状況に即して確認する

◎ 売却代金で借入金を完済できるか、不足額が生じるかを試算する

◎ 共有者や相続人がいる場合は、権利関係や意思確認の状況を整理する

◎ 債権者、弁護士、不動産会社など、必要な相談先を検討する

不動産の競売の開始決定が出た後でも、事情によっては任意売却を検討できる場合があります。しかし、売却を進めれば必ず競売が止まるというわけではありません。

競売手続きの進行状況を確認し、債権者などと具体的に協議する必要があります。

また、税金の滞納による差押えと、住宅ローンなどの債権に基づく担保不動産競売では、手続きや関係者が異なります。差押えの原因を確認せずに、任意売却だけを検討しても問題が解決しないことがあります。

8.不動産価格が高いうちに売却を検討する意味

不動産価格が上昇しているときに売却することには、一定の合理性がある場合があります。

特に、住宅ローンの返済負担が重くなっている人や、今後の収入減少が予想される人にとっては、価格が維持されているうちに売却した場合と、返済が行き詰まってから売却する場合とで、結果が変わる可能性があります。

ただし、価格が高いうちに売却すれば必ず得をするという単純な話ではありません。

売却後の住まいをどうするのか、売却費用をどのように準備するのか、残債がある場合にどう返済するのかといった問題も考える必要があります。

また、家族の事情や仕事の都合によって、すぐに転居できないケースもあります。

それでも、返済が厳しくなったときに「売却するか、住み続けるか」という選択肢を比較できるよう、早い段階で不動産の価値と借入金の状況を把握しておくことは重要です。

不動産の価格が上がっていることを、安心材料として受け止めるだけではなく、必要に応じて資産と負債のバランスを見直す機会として考えることもできます。

9.今後、不動産競売はさらに増えるのか

今後の競売件数については、慎重に考える必要があります。

競売件数は、住宅ローンの返済状況だけで決まるものではありません。金融機関の対応、返済条件の変更、保証会社の対応、企業の業績、雇用環境、不動産価格、裁判所の手続きなど、さまざまな要因が関係します。

そのため、近年競売件数が増加しているからといって、今後必ず急増すると断定することはできません。

一方で、次のような要因が重なれば、返済に行き詰まる家計や事業者が増える可能性があります。

住宅ローンの返済負担

変動金利型住宅ローンの利用者が多いなかで、金利環境の変化は家計に影響する可能性があります。金利の上昇が実際の返済額にどう反映されるかは契約内容によって異なるため、借入先への確認が必要です。

高額な住宅購入と長期ローン

住宅価格が上昇するなかで、借入額を増やしたり、返済期間を長くしたりすることで、毎月の負担を調整するケースがあります。

しかし、返済期間が長くなれば、その間に収入や家族構成、健康状態などが変化する可能性もあります。

ペアローン世帯の収入変化

夫婦双方の収入を前提に住宅を購入した場合、一方の収入が減ることで家計全体の余裕が失われる可能性があります。離婚や別居が重なれば、住宅の処分やローンの整理が難しくなることもあります。

不動産市場の変化

不動産価格が上昇し続けるとは限りません。地域や物件によっては、価格が伸び悩んだり、売却までの期間が長くなったりする可能性があります。

不動産の売却価格が想定を下回れば、借入金を返済できず、売却後にも債務が残るケースが出てくるかもしれません。

これらは、今後注視すべきリスクです。競売件数が実際にどの程度増えるかについては、今後公表される統計を確認する必要があります。

10.よくある質問(Q&A)

Q1.不動産価格が上がっているなら、住宅ローンを返せなくなっても売却すれば解決できますか?

必ずしもそうではありません。売却価格がローン残高を上回っているか、売却費用を賄えるか、実際に買主が見つかるかなどを確認する必要があります。

Q2.住宅ローンを滞納する前なら、通常売却できますか?

通常の売却を検討できる場合があります。ただし、抵当権の抹消や残債の返済が必要になるため、借入先や物件の状況を確認することが重要です。

Q3.任意売却をすれば、必ず競売を避けられますか?

必ず避けられるわけではありません。債権者との調整、売買契約の成立、手続きの進行状況などによって異なります。早期に相談することが大切です。

Q4.競売開始決定が届いた後でも、売却を検討できますか?

事情によっては検討できる場合があります。ただし、残された時間や債権者との協議が重要になるため、通知を放置せず、速やかに専門家へ相談してください。

Q5.ペアローンで夫婦の一方が失業したら、もう一方が返済すればよいのでしょうか?

もう一方が返済を負担できる場合もありますが、家計への影響は大きくなります。各ローンの契約内容や返済額を確認し、必要に応じて金融機関に相談することが重要です。

Q6.離婚すれば、ペアローンは解約できますか?

離婚しただけでローン契約が自動的に終了するわけではありません。住宅の所有権、ローン契約、売却の可否などを個別に整理する必要があります。

Q7.競売になれば、住宅ローンの残債はなくなりますか?

必ずしもなくなりません。競売による売却代金を返済に充てても残債がある場合、原則として残った債務の問題が続きます。具体的な返済方法は債権者との協議などによります。

Q8.住宅ローンが苦しい場合、最初にどこへ相談すればよいですか?

まずは借入先の金融機関に返済状況を相談するとともに、不動産の売却可能価格や残債を確認することが考えられます。滞納や競売の手続きが進んでいる場合は、弁護士などの専門家にも相談してください。

11.用語解説

競売(けいばい/きょうばい)

住宅ローンなどの債務返済が滞った際、債権者(金融機関等)の申立てにより、裁判所が手続き主体となって強制的に不動産を競売にかけ、売却代金を債権回収に充てる仕組みです。

市場価格より低値で落札されるケースが多く、売却時期や条件に所有者(債務者)の意思を反映させることはできません。

任意売却(にんいばいきゃく)

住宅ローン等の返済が困難になった際、競売へ至る前に債権者(金融機関等)の同意を得たうえで、一般の市場で不動産を売却する方法です。

競売よりも市場価格に近い高値で売却できる可能性があり、引渡し時期や引越し代の算出について関係者と交渉できる余地がありますが、債権者全員の同意や厳格な時間的制約が伴います。

抵当権(ていとうけん)

住宅ローンなどを借り入れる際、金融機関が対象不動産に設定する担保権(法的権利)のことです。

所有者はそのまま不動産を使用・居住できますが、万が一返済が滞った場合、金融機関は優先的にその不動産から債権を回収する権利(最終的には競売を申し立てる権利)を行使できます。

残債(ざんさい)

住宅ローンの元金や利息のうち、不動産を売却した代金を返済に充てた後や、一部返済を行った後にもなお残り続ける借入金残高のことです。

不動産を売却しても完済に至らなかった場合、残った残債については売却後も引き続き分割返済などの方法で支払い義務を負うことになります。

ペアローン

同一の物件に対して夫婦や親子など2人がそれぞれ主債務者として住宅ローンを契約し、共同で資金を調達する仕組みです。

お互いが相手のローンの連帯保証人(または連帯債務者)となるケースが多く、借入可能額を増やせるメリットがある反面、将来的な離婚・収入減少・返済不全が生じた際に権利関係や返済責任の調整が非常に複雑化するリスクがあります。

期限の利益(きげんのリえき)

「契約で定められた返済期日までは、借入金を一括返済しなくてよい」という、債務者(借り手)側の権利です。通常、住宅ローンを数ヶ月連続して滞納するなど一定の事由(期限の利益の喪失条項)に該当するとこの権利を失い、金融機関から残債全額の一括返済を求められることになります。

12.筆者の見解――不動産価格の上昇と、家計の安全性は別の問題

不動産価格が上がっているというニュースを見ると、不動産を所有している人にとっては資産価値が増えているように感じられます。

実際に、購入時より高い価格で売却できる人もいるでしょう。

しかし、価格が上がっていることだけで、住宅ローンの返済や将来の生活が保証されるわけではありません。

長期間の金融緩和と低金利環境は、住宅取得や不動産投資を支えてきました。

その一方で、借入れを前提に不動産を取得することが一般的になり、借入可能額を基準に購入予算を考える人も出てきたのではないでしょうか。

私は、これからの不動産市場を考えるうえで、価格の上昇率だけでなく、借入金の規模と返済能力に目を向ける必要があると考えています。

特に、夫婦双方の収入を前提に住宅を購入するペアローンは、購入時には合理的な選択であっても、将来の収入減少や離婚などによって、返済や売却の問題が複雑になる可能性があります。

今後、こうした世帯で返済困難が増えるかどうかは、実際の統計を見ながら判断する必要があります。しかし、住宅価格が高いから大丈夫、融資を受けられたから大丈夫と考えることには、注意が必要です。

そして、競売に至った人に対して「なぜもっと早く売らなかったのか」と言うだけでは、問題の本質は見えてきません。

売却を決断できない事情があり、家族や金融機関との調整があり、売却しても残債が残る可能性があるからこそ、早期に相談できる仕組みと、現実的な選択肢の整理が重要なのです。

不動産価格が上昇している局面であっても、返済が厳しくなったときには、資産価値と借入金のバランスを冷静に確認する必要があります。

競売は、ある日突然始まるように見えるかもしれません。しかし、その前には返済負担の増加、収入の変化、家計の悪化など、何らかの兆候が現れている場合があります。

その兆候に早く気づき、通常売却、任意売却、返済条件の見直しなどを比較できれば、選択肢を確保できる可能性があります。

まとめ

不動産価格が上がっているとされるなかで競売物件が増加している背景には、単純な価格の問題だけではなく、借入額、返済能力、売却のタイミング、金融機関との調整など、複数の要因が関係していると考えられます。

任意売却が知られるようになっても、相談が遅れたり、残債や権利関係の問題があったりすれば、競売を避けられるとは限りません。

また、ペアローンや長期の住宅ローンを利用する世帯では、住宅価格の上昇だけでなく、将来の収入変化や金利環境にも目を向ける必要があります。

住宅ローンの返済に不安がある場合や、差押え・競売に関する通知が届いた場合には、状況を放置せず、借入先や専門家に相談しながら、早い段階で選択肢を整理することが重要です。

不動産の価格だけでなく、借入金の残高、売却にかかる費用、売却後の生活まで含めて考えることが、今後の生活を守るための第一歩になります。

※この記事は、不動産市場や住宅ローンに関する一般的な情報を整理したものです。個別の売却や債務整理の可否は、契約内容、債権者の判断、裁判所の手続き、物件の状況などによって異なります。

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