はじめに
最近、残価設定型の住宅ローンが話題になっていますね。
この仕組みは、民間金融機関だけでなく国土交通省も推進する方向性を示しており「国のお墨付きなら安心」という感じを受ける人も多くいるでしょう。
ただし、このような金融商品は不動産市況が怪しくなると金融機関や国が市場を活性化させるために作り上げるものなので、消費者側が仕組みを十分に理解しないで選択すると大きな失敗になるかもしれません。
平成のバブル経済が崩壊した後にも不動産市況が悪くなり、当時の住宅金融公庫が「ゆとりローン」という金融商品を前面に打ち出し住宅購入を促進しましたが、時代の変化を読み切れていなかった仕組みのために沢山の人が返済に苦しむ結果となりました。
残価設定型住宅ローンも、表面的には月々の返済負担を抑えられる魅力的な仕組みに見えます。
しかし、その裏側には、
・以前から限定的に扱われてきた実態
・自動車の残価設定ローンで実際に起きているトラブル
・急激な経済環境や金利、収入の変化との乖離
・ゆとりローンと共通する構造的なリスク
といった、見落とされがちなポイントが存在します。
こちらのブログでは、なぜ今この住宅ローンが注目されているのか、従来の住宅ローンとの違い、そしてメリット以上に注意すべき点を整理しながら、どんな人に向き、どんな人には慎重な判断が必要なのかを冷静に解説していきます。
残価設定型住宅ローンの本質

例えば、
物件価格:5,000万円
想定される将来残価:2,000万円
であれば、返済対象は3,000万円となりますので、月々の返済額が抑えられるため、表向きは「無理のない返済の住宅ローン」に感じます。
この仕組みが、車の残価クレジットと同様で月々の返済負担を少なくして、設定期間が終了する時に残価分をどうするか考えましょう、みたいな感覚ですね。
なぜ「月々の返済が楽」に見えるのか
・借入額が小さく見える⇒錯覚です
・毎月の返済負担が軽い⇒問題の先送り
・住宅価格が高騰する局面では魅力的に映る⇒身の丈以上の借入をする原因
特に最近のように「家は高いけれど、金利は低い」という環境では、心理的ハードルを下げる効果があります。
ここが注意ポイント。残価は“確定した金額”ではない
残価設定型住宅ローンで設定される「残価」は、あくまで想定・仮定にすぎません。
・将来、本当に2,000万円で売れるか誰にも分からない
・市況悪化・金利上昇・エリア価値の低下
・建物のメンテナンス不足や老朽化や周辺環境の変化
これら要因が重なれば、想定していた残価を下回る可能性も十分あります。
ポイント
月々の返済額だけで判断せず、最後にどう終わるローンなのかまで想像できるか。
そこが、この残価設定型住宅ローンと上手に付き合えるかどうかの分かれ目になります。
① 従来型住宅ローンとの比較(本質の違い)

まず、従来型住宅ローンは「借りたお金はすべて返し切る」という前提で設計されています。物件価格=借入額となり、毎月の返済はやや重く感じられるものの、その分、返済が進むにつれて残債は着実に減っていきます。将来その家を売るかどうかは必須条件ではなく、「住み続けること」を中心にライフプランを組み立てられるのが特徴です。
一方、残価設定型住宅ローンは発想がまったく異なります。あらかじめ将来の想定売却価格(残価)を設定し、その残価を除いた部分だけを返済していく仕組みです。そのため、月々の返済額は軽く見えますが、実際にはローン残高が思ったほど減っていかない感覚に陥りやすくなります。これは、最初から「最後に売却する」「借り換える」「一括返済する」といった出口が前提に組み込まれているためです。
つまり、従来型住宅ローンは「返しながら住むローン」であり、残価設定型住宅ローンは「将来の手放し方まで含めて組むローン」です。この違いを理解せずに、月々の返済額だけで判断してしまうと、後になって想定外の負担や選択肢の少なさに気づくことになりかねません。
この表は単なる条件比較ではなく、どの時点をゴールとして住宅を考えるかを問いかけている、と言えるでしょう。
従来型住宅ローンとの比較(本質の違い)パート2

従来型住宅ローンでは、返済が進むにつれて残債が減るため、仮に価格が下落しても売却時期を待つ、住み続けるといった選択でリスクを調整できます。
そのため価格下落は、ある程度自分の判断でコントロールしやすい構造です。
また、残債が減る分、金利上昇の影響も受けにくく、長く住むことを前提にした住宅取得と相性が良いと言えます。売却や住み替えの判断も比較的自由です。
一方、残価設定型住宅ローンは、将来の残価が基準になるため、価格が下落すると差額リスクがそのまま表面化します。
返済期間中も一定額の残債が残るため、金利上昇の影響を受けやすく、長期居住には向きません。売却や返済方法にも制約が多く、住まいと同時に将来の選択肢も限定されやすい仕組みです。
残価設定型住宅ローンは大手ハウスメーカーでは以前から取り扱いがあった

実際には、大手ハウスメーカーが以前から、一定期間後の売却や買い取りを前提とした住宅取得として、限定的に取り扱ってきました。
将来価値を織り込んだ資金計画や、住み替え前提の住宅取得は、主に富裕層や転勤族、ライフプランが明確な層向けの提案だったのです。
重要なのは、これらがリスクを理解できる層に対して、出口まで含めて丁寧に説明したうえで使われてきたという点です。住み続ける住宅というより、「一定期間利用する資産」としての位置づけが明確でした。
現在は、住宅価格の高騰、金利上昇、可処分所得の伸び悩みが重なる中で、この仕組みが一般層にも広く勧められ始めています。
大和ハウス工業が2022年から全国で紹介を開始し、2023年には楽天銀行との金利選択型商品、2024年にはパナソニックホームズも提携ローンを扱うなど、取り扱いは急速に広がりました。
つまり問題の本質は、「新しいかどうか」ではありません。
本来は限定的に使われてきた仕組みが、前提条件を十分に理解しない層にも届き始めている——ここに、注意すべきポイントがあります。
なぜ国が残価設定型住宅ローンを推進しているのか

まず、住宅価格は高止まりした状況で一般消費者が購入できないようになっています。
更に、金融政策は「金利のある世界」へと移行し、従来のように低金利を前提とした住宅取得が難しくなってきました。
加えて、若年層や共働き世帯の可処分所得は大きく伸びておらず、「完済前提の住宅ローン」では、そもそも家を買えない層が増えています。
また、人口減少が進む中で、国としては住宅を長期間固定化させるよりも、住み替えを促し、住宅を市場で循環させたいという狙いがあります。空き家問題やエリアの偏在を考えれば、住宅の流動化は避けて通れない課題です。
このような状況では、不動産市況が冷え込んでしまい経済に大きな打撃を与えてしまう事を鑑みて、国が残価設定型住宅ローンの利用を促すことになったのでしょう。
こうした状況を踏まえ、国は残価設定型住宅ローンを「住み替えを前提にした住宅取得」「住宅を流動化させる金融商品」として、あくまで選択肢の一つに位置づけています。
重要なのは、これは住宅政策としての合理性であって、個々の家計の安全を保証する制度ではないという点です。
国の狙いと、家庭が背負うリスクは、必ずしも一致しません。
だからこそ、制度が用意された理由と、自分のライフプランが合っているかを切り分けて考えることが欠かせないのです。
残価設定型住宅ローンのメリット

自分自身に適しているかを見極めて検討をしましょう。
① 月々の返済額を抑えられる
将来の残価を差し引いて借りるため、同じ物件価格でも月々の返済は小さく見えます。
たとえば、教育費がかかる時期の共働き世帯や、起業・独立前で手元資金を厚くしておきたい場合、あるいは投資や事業資金を優先したい人にとっては、「今の資金余力を確保する」という意味で実用的な選択肢になります。
② 住み替え前提の人には合理的
転勤の可能性が高い人や、子どもの成長に合わせて住み替えを考えている家庭、将来的な親との近居・同居を見据えているケースでは、完済型ローンよりも無駄が少なくなることがあります。
③ 住宅を“資産”として考えるきっかけになる
一方、残価設定型では、
・立地
・管理状態
・将来の流動性
を自然と意識することになります。
結果として、「将来売れない物件」を掴みにくくなるという副次的な効果もあります。
④ 初期の資金拘束を抑えられる
手元資金を残しやすく、突発的な支出や生活防衛資金への備えがしやすくなる点は、現実的にも心理的にも大きなメリットと言えます。
⑤ 金利上昇前提でも「短期なら成立しやすい」
「老後まで背負わない」「出口が決まっている」前提なら、割り切った選択として成立しやすいローンです。
⑥ 大手ハウスメーカー物件との相性は良い
・ブランド力
・管理や仕様の安定性
・過去の流通実績
があり、残価が大きくブレにくい傾向があります。
同じ残価設定型住宅ローンでも、物件によってリスクの差が大きく出るため、この点は見逃せないポイントです。
ポイント
月々の返済が軽く見えても、その分、将来の出口が最初から組み込まれています。
ただし、「いつ・どう手放すか」を決められる人にとっては、有効な道具でもあります。
住み替え時期が見えている、資金計画に明確な優先順位がある――そうした前提があって、はじめてメリットが活きてきます。
結局のところ、問われるのはローンの良し悪しではなく、それを使う人の設計力です。
住宅ローンは「借り方」よりも、終わらせ方まで描けているか。
そこが、この選択の分かれ目になります。
残価設定型住宅ローンの見落とされがちなデメリット

「月々の負担が少ない」という魔法のような言葉の裏に潜むメリットは・・・
① 残価は「保証」ではない
残価とは、「その価格で売れると想定している」という目安の数字に過ぎません。
・金利の上昇
・不動産市況の悪化
・周辺環境の変化
・建物の管理状態の低下。
これらが重なれば、想定していた残価を下回る価格でしか売れないことは、決して珍しくありません。
その場合、差額は自己資金で補填するか、借り換え・再ローンを検討する必要があります。
「想定」と「現実」のズレが、そのまま家計負担として表面化します。
② 金利上昇に弱い
金利が上がると、買い手が減り、売却価格が下がりやすくなります。
同時に、借り換え条件も悪化しやすくなり、出口戦略が描きにくくなります。
結果として、「月々が軽いはずだったローンが、ある時点から急に重く感じられる」状況が起こり得ます。
③ 途中で身動きが取りづらい
離婚、転職、親の介護といった人生の変化が起きたときに、「売りたいのに思うように動けない」という状態に陥りやすい点は、事前に理解しておくべきポイントです。
④ 心理的な負担が残りやすい
負担の低い住宅ローンの返済に慣れてしまうと、普通に生活しているうえでの経済観念が甘くなり、いざ売却しようと思った時に
「返済しているのに元本がなかなか減らない。」
「完済のイメージが持ちにくい。」
「老後まで不安が残る。」
このような状況で負担に感じてしまうことになります。
こうした感覚は、数字以上にストレスになります。
家計上は成り立っていても、精神的な安心感を得にくいという声は少なくありません。
残価設定型住宅ローンのメリットを活かせる具体的ケース

ケース① 転勤・住み替えがほぼ確定している世帯
このケースでは、居住期間があらかじめ見えており、「いつか売る」ことに心理的な抵抗がありません。完済を目指す必要がなく、出口を前提にした資金計画が立てやすいため、残価設定型住宅ローンの仕組みと噛み合います。
残価設定型は、短期居住 × 流動性重視の住まい方と相性が良いと言えます。
ケース② 子育て期間限定で住むことが決まっている
老後は別エリアや、よりコンパクトな住まいを想定しています。
この場合、人生設計の中に「住み替え」が最初から組み込まれており、住宅を一生ものとして考えていません。
老後までローンを引きずらず、「今の生活に最適化した家」として割り切って使える点で、残価設定型の考え方と合致します。
ケース③ 立地が強く、出口が読みやすい物件
加えて、大手ハウスメーカーの標準仕様など、将来の評価が大きくブレにくい条件が揃っています。
このような物件は、売却期間や価格の見通しを立てやすく、残価設定型住宅ローンの前提となる「出口」が描きやすくなります。
逆に言えば、物件力が弱い場合、残価設定型は成立しにくいという点も押さえておく必要があります。
ケース④ 手元資金を厚く残す必要がある人
このケースでは、住宅ローンを「家を買うための借金」ではなく、資金配分を調整するための道具として使っています。
月々の返済を抑えることで手元資金を厚く残し、万が一、想定残価を下回る売却になっても差額を補填できる余力があります。
返済の軽さを安心材料にするのではなく、戦略的に使える人だからこそ成立する選択です。
ケース⑤ 残価割れしても耐えられる世帯
このタイプは、最初から「残価割れが起きる可能性」を織り込んだ上で判断しています。
最悪のシナリオを想定しても、家計が破綻しないという前提があるため、精神的な負担も比較的小さく抑えられます。
ただし、こうした条件を満たせる人は決して多くありません。
「残価設定型でも本当に大丈夫な人」は、実はかなり限定的だという点は、はっきり意識しておく必要があります。
残価設定型住宅ローンを選ぶと危険な典型パターン

下記のような状況の方は注意しましょう。
パターン① 「終の住処」のつもりで選ぶ
残価設定型住宅ローンは、長期居住になるほど不利になります。築年数が進むにつれて売却条件は悪化し、気づいたときには出口が見えなくなりがちです。
この仕組みは、老後の住まいとして使うことを想定していません。
パターン② 収入が今後“伸びる前提”の人
前提が一つでも崩れた瞬間、資金計画は一気に苦しくなります。構造的には、1990年代のゆとりローンと非常によく似ています。
楽観シナリオありきの判断は、最も危険だと言えます。
パターン③ 物件の流動性を軽視している
残価設定型では、売れること自体が前提条件です。流動性が低いと残価は成立せず、差額負担が現実になります。
この残価設定型住宅ローンでは、住宅性能よりも「売れるかどうか」が何より重要です。
パターン④ 月々の返済の安さだけで決める
元本は思ったほど減らず、完済のイメージも持ちにくいため、年数が経つほど将来への不安が増していきます。
これは、実務で最も多く見られる失敗パターンです。
パターン⑤ 車の残価設定ローン感覚で考えている
住宅は金額の桁が違い、売却には時間もかかります。市場変動の影響も大きく、「気軽にやり直す」ことはできません。
住宅は、一度選ぶと簡単には引き返せない資産だという点を忘れてはいけません。
車の残価設定ローンでも、すでにトラブルは起きている

一方で、次のようなトラブルも珍しくありません。
・想定していた残価より査定額が低く、差額を請求されるケース。
・走行距離や小さな傷が理由で、想定以上に減額されるケース。
・乗り換えを前提にしていたものの、その計画が崩れ、再ローンを組まざるを得なくなるケース。
車ですら、こうした問題は日常的に起きています。
ここで冷静に考える必要があります。
住宅は車と違い、金額は桁違いで、売却には時間がかかり、市場環境の影響も強く受けます。
それにもかかわらず、「仕組みが似ている」という理由だけで同じ感覚で扱ってしまうのは危険です。
車の残価設定ローンですらトラブルが起きる仕組みを、30年規模・数千万円単位の住宅に当てはめたとき、一般的な家計が本当に耐えられるのか。
ここは、感覚ではなく、数字と最悪シナリオを前提に考えるべきポイントです。
残価設定型住宅ローンは、分かりやすく見える反面、失敗したときの修正がきかないという点を忘れてはいけません。
急激な環境変化に、収入が追いついていない現実

物価は上がり、金利も上昇局面に入り、住宅価格は高止まりしたままで、一方では一般世帯の収入はそれに見合うほど急激には増えていません。
このギャップが広がる中で、残価設定型住宅ローンは「今の返済を軽くする」手段としては非常に有効です。
月々の負担を抑えられるため、住宅取得のハードルは確かに下がります。
ただし、それは同時に、将来の負担を後ろに回しているという意味でもあります。
表向きには「住宅を買いやすくするための対応策」ですが、金利上昇や市況悪化がさらに進んだ場合でも、家計が耐えられる設計になっているかどうかは、慎重に見極める必要があります。
今の負担を軽くする選択が、将来の安心につながるのか。それとも、将来の不安を先送りしているだけなのか。
残価設定型住宅ローンを考える際は、今の家計だけでなく、変化した後の家計まで想像することが欠かせません。
ゆとりローンとの共通点はあるのか

若いうちは返済を軽くし、将来は収入が増え、景気は回復する――そんな前提です。
しかし現実は、金利は上がり、景気低迷は長期化し、収入は思うように伸びませんでした。
結果として、返済不能や住み替えができない世帯が多く生まれました。
残価設定型住宅ローンも、
・将来は売却できる
・大きく値下がりしない
・環境変化は緩やか
といった前提に立っています。
将来を楽観的に見積もることで、今の負担を軽くする構造は、この点では、ゆとりローンと非常によく似ています。
制度そのものが悪いのではなく、「想定が外れたときの耐性」をどこまで考えているか。
そこが、過去と同じ失敗を繰り返すかどうかの分かれ目です。
表向きの政策と、個人が背負うリスクは別

住宅取得者を減らさず、市場を冷やさず、住み替えや住宅購入を増やすという事は、政策としては合理的です。
ただし、政策の合理性と、個人が負う人生リスクは別物です。
国は最終的に、「あなたの住宅ローンが破綻した後」まで責任を取ってくれるわけではありません。
実体経済とかけ離れた状況を、金融緩和や制度設計で無理に埋めようとすると、その歪みは必ず個人の家計に跳ね返ります。
仕組みが整っているから安心なのではなく、想定が崩れたときに耐えられるか。
そこまで考えて初めて、選択肢になります。
まとめ

特に、
・収入が伸び続ける前提
・売却が必ず成立する前提
・環境変化は緩やかという前提
こうした前提を無意識に信じると、「ゆとりローン」と同じ構造的リスクを抱えかねません。
住宅ローンで本当に大切なのは、今払えるかではなく、悪化したときに逃げ道があるか。
選択肢が増えた今だからこそ、一度立ち止まって考えておきたいテーマです。
「月々が安い」より「最後まで安心できる」住宅ローンを。

残価設定型住宅ローンが、あなたの家計・ライフプランに本当に合っているのか。
✔ 他のローンとの比較
✔ 将来売却時のリスク
✔ 住み替え・老後への影響
第三者目線で、現実的に整理しますので無理な営業は一切ありません。
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