BLOG ブログ

市街化調整区域は農地を守る制度ではない|農地転用・線引き制度・実務上の注意点を徹底解説します。

市街化調整区域は農地を守る制度ではない|農地転用・線引き制度・実務上の注意点を徹底解説します。

市街化調整区域というと「農地を守るための制度」「だから基本的に何も建てられないんですよね?」

――こうしたイメージを持たれている方は、実はとても多いです。不動産のプロである不動産業者であっても「市街化調整区域は農地を守るために開発行為ができない」と言っている方も少なくありません。

しかし、実務の現場に立っていると、この理解が原因で
・売れるはずの土地が長年放置されてしまったり
・不要な諦めや誤った判断をしてしまったり

といったケースを何度も目にします。

結論から言うと、市街化調整区域は「農地を守るためだけの制度」ではありません。
その本質は、無秩序な市街化を抑制し、都市の成長をコントロールするための“線引き制度”にあります。

農地が多くなっているのは、その結果として守られているに過ぎず、制度の目的と運用を正しく理解しないと、現実を大きく見誤ってしまうのです。

本記事では、市街化調整区域がなぜ誤解されやすいのかを整理したうえで、線引き制度の本来の考え方、農地転用との関係、そして現場でよく起きる注意点を、実務目線でわかりやすく解説していきます。

「本当にこの土地は売却できないのか?」
そう感じたことがある方にこそ、ぜひ知っておいてほしい内容です。

市街化調整区域の線引き

市街化調整区域は、都市計画法に基づく「線引き」によって定められています。

線引きとは、

•市街化を積極的に進める区域(市街化区域)
•市街化を原則として抑制する区域(市街化調整区域)

を明確に分ける仕組みです。

この制度が導入された背景には、高度経済成長期に全国で問題となったスプロール現象があります。

無秩序に住宅や工場が郊外へ広がることで、

•道路・上下水道のインフラ整備が追いつかない
•学校・消防・ゴミ処理など行政サービスのコストが膨張する
•自治体財政が持たなくなる

といった深刻な課題が生じました。

そこで国は、都市化をコンパクト化する事によりインフラを整備する費用を集中させるという目的で線引き制度を導入したのです。

つまり、市街化調整区域の本質は、都市経営・行政運営を効率化するためのエリアであり、農地や自然を守ること自体を主目的とした制度ではありません。

「農地が多い地域」と「農地を守る地域」は違う

ここが非常に重要なポイントです。
市街化調整区域のイメージとして農地が多いのは事実ですね。
市街化を抑制した結果として、農地や自然が多い環境が残っています。

市街化調整区域では、

•原則として開発行為が認められない
•建築行為にも厳しい制限がある

その結果、宅地化が進みにくく、

•農地
•山林
•空地

が多く残りやすい傾向があります。

そのため、「市街化調整区域は農地が広がる地域」という見た目の説明としては、決して間違いではありません。

しかし「農地を保護するための区域」ではない

一方で、市街化調整区域は農地を守るために指定されたという説明は、制度の本質から見ると正確ではありません。

農地・農業を守る制度は、

•農地法
•農業振興地域制度(農振法)

であり、市街化調整区域はあくまで都市計画の制度です。

農地が残っているのは、目的ではなく結果だと理解する必要があります。

市街化調整区域=農地ではない

実務の現場では、「市街化調整区域=全部農地」という誤解も多く見られますが、これも正しくありません。

市街化調整区域内には、

•既存集落
•住宅
•工場・倉庫
•店舗
•資材置き場や駐車場

など、さまざまな土地利用が存在します。

特に、線引き以前から存在していた建物や集落は、現在も合法的に存続しています。

したがって、市街化調整区域とは、「農地の地域」ではなく、「新たな都市化を抑える地域」と捉える方が実態に近いのです。

市街化調整区域における農地の区分

市街化調整区域の農地がややこしく感じられる最大の理由は、「都市計画法」と「農地法」、さらに「農業振興地域の整備に関する法律」が重なって適用されているからです。

ここでは、実務で必ず押さえておきたい農地の区分を整理しながら解説します。

① 農業振興地域内農用地区域内農地(青地)

まず最も制限が強いのが、この青地です。

農業振興地域の中でも「将来にわたって農地として守る」と指定された区域

・原則として農地転用は不可

・除外(農振除外)→農地転用という二段階が必要

実務上の注意点

・農振除外は年1回~2回程度しか受付しない自治体が多い

・除外理由は非常に厳しく

・代替地がない

・周辺農地への影響がない

・農業利用の合理性を損なわない

などが求められる

「売れない農地」と言われやすいが、制度上の壁が高いだけで売却できない訳ではない。

② 農業振興地域内農用地区域外農地(白地)

次に出てくるのが白地です。

農業振興地域には含まれるが農用区域からは外れている農地です。

・農振除外は不要

・農地法の許可が中心になる

実務上の注意点
「白地=自由に転用できる」と誤解されがちで、実際は農地区分(甲種~第3種)や周辺の利用状況、市街化調整区域の立地基準によって可否が大きく変わります。

青地よりは可能性があるが、事前調査なしの判断は危険です。

③ 農地法による農地の区分(甲種~第3種)

ここからが、農地転用の可否を左右する農地法上の区分です。
同じ白地でも、この区分次第で結果が真逆になります。

③-1 甲種農地

・市街化調整区域内の特に良好な農地

・高度な集団農地、基盤整備済み

・原則、転用不可(例外は極めて限定的)

👉 実務感覚では「ほぼ無理」と思って対応するレベルです。

③-2 第1種農地

・良好な農地で、集団性・生産性が高い

・原則、転用不許可

・公共性の高い用途などに限り例外あり

👉 個人住宅・資材置場・駐車場などはかなり厳しいのが現実です。

③-3 第2種農地

・将来的に市街化が想定される農地

・代替地がないことを説明できれば許可の可能性あり

👉 実務で最も相談が多いゾーンで、立地・接道・周辺状況の説明力が結果を左右します。

③-4 第3種農地

・既に市街地に近接

・インフラ整備済み

・原則、転用許可される農地

👉 市街化調整区域でも現実的に転用できる可能性が高いので売却の可能性が高まる農地です。

④ よくある誤解と実務的な整理

多くの方が混同しているポイントは次の3つです。

・青地/白地 = 農振法の話

・甲種~第3種 = 農地法の話

・建てられるかどうか = 都市計画法の話

つまり、どれか一つだけ見ても答えは出ないというのが市街化調整区域の現実です。

開発行為を行う場合には、各自治体の開発担当・農業委員会・農振課等の各部署に各許可の可能性をヒアリングして開発行為の可否を判断します。

ポイント

「市街化調整区域 × 農地」と聞くと、最初から「無理」「売れない」「価値がない」と言われがちです。

しかし実際には、

・区分の整理

・自治体ごとの運用確認

・ストーリーの組み立て

この3点を押さえるだけで、可能性が見えてくるケースは少なくありません。

大切なのは、ネット情報や噂話ではなく、「その土地は、制度上どこに位置しているのか」を一つずつ丁寧に確認することです。

それが、市街化調整区域の農地と向き合う最初の一歩になります。

市街化区域と市街化調整区域の農地転用の違い

ここは特に混同されやすい部分なので、明確に整理します。

市街化区域・市街化調整区域共に地目が農地(畑・田)の不動産を売却する時には、農地転用の手続きが必要となります。

同じ農地転用の手続きが必要と聞くと「そんなにハードル高くないの?」と思う方がいるかと思いますが、手続きの内容が全然違いますので説明します。

市街化区域の農地転用は「届出」となります。各自治体の農業委員会で手続きをしますが、事後報告的な内容で農業委員会は審議をする事なく受付をして地目変更ができます。

市街化区域は、都市として市街化を進める前があるため、農地転用は比較的緩やかです。

具体的には、
•農地法第4条・第5条
•原則として「届出」

で足ります。

行政としても、いずれ宅地化される前提のエリアという位置づけのため転用を強く抑制する考え方はありません。

一方、市街化区域内の農地については、農地転用の「許可」を農業委員会に申請して審議の結果、農地転用許可⇒地目変更という流れになります。

市街化調整区域の農地転用:原則「許可」

市街化調整区域では事情が全く異なります。

•市街化を抑制する区域
•新たな土地利用の変化を起こしたくない区域

であるため、農地転用は、原則として「許可制」となります。

この許可は、

•農地法上の許可
•都市計画法上の整合性

の両面から審査されます。

つまり、

•農地として転用可能か
•そもそも建築や開発が認められるのか

という二重、三重のハードルが存在します。

なぜ「市街化調整区域=農地保護」という説明が広まったのか

市街化調整区域の不動産の取り扱いに不慣れな不動産会社の営業マンや自治体の担当者によっては「市街化調整区域は農地を守るための地域」

この誤解が広まった背景には、いくつかの理由があります。

•農地が多い見た目からの直感的理解
•農地法と都市計画法の混同
•行政窓口での簡略化された説明
•開発を抑えるための分かりやすい表現

しかし、制度を正確に理解しないままでは、

•売却の可能性を早期に諦めてしまう
•本来検討できる選択肢を見落とす

といったことにもつながりかねません。

このような方はご相談下さい

・市街化調整区域の農地を相続したものの、売却できるのか分からず困っている

・農地転用を検討しているが、許可が下りる現実的な可能性を知りたい

・「調整区域だから無理」と言われ、半ば諦めてしまっている

・既存宅地・既存集落に該当するのか、自分では判断できない

・自治体ごとの運用差を踏まえた、現実的な選択肢を知りたい

市街化調整区域は「何もできない土地」と思われがちですが、制度を正しく理解し、

・都市計画
・農地法
・自治体ごとの運用

これらを個別に、かつ総合的に確認することで、初めて見えてくる可能性がある土地でもあります。

「売れない」と決めつける前に、「何ができて、何ができないのか」を整理することが、後悔しない判断につながります。

まとめ:市街化調整区域は都市計画法、農地は農地法・農業は農振法

市街化調整区域は「農地を守るための制度」と誤解されがちですが、本質はそこではありません。

本来の目的は、無秩序な都市化を抑え、道路や上下水道などのインフラ整備を効率的に行うために、市街地を広げない区域として位置づけることにあります。

その結果として農地が多く残っているだけで、農地保護そのものが直接の目的ではありません。

制度面を見ると、市街化区域では農地転用が原則として届出で足りるのに対し、市街化調整区域では許可が必要になります。

さらに実務では、都市計画法だけでなく、農地法や農業振興地域整備法(農振法)が重なって適用され、これが「難しい」「何もできない」という印象を強めています。

加えて、許可基準や判断の考え方は自治体ごとの運用差が非常に大きく、同じような土地でも結果が異なることは珍しくありません。

市街化調整区域を考える際は、漠然としたイメージと制度の本質を切り分けて理解することが重要です。

この視点を持つことで、必要以上に可能性を狭めることなく、その土地にとって現実的な判断ができるようになります。

市街化調整区域の不動産売却「農地だから無理」では、判断が早すぎます。

市街化調整区域や農地が絡む不動産は、ネット情報や一般論だけで判断すると、「本来できたはずの売却・活用」を逃してしまうことがあります。

・農地転用が可能か知りたい
・白地/青地の違いを確認したい
・役所で何を聞けばいいかわからない
・売却すべきか、保有すべきか迷っている

こうした段階でも構いません。

実務ベースで整理し、方向性を一緒に考えます。

▶ 市街化調整区域・農地に関するご相談はこちらから

CONTACT
お問い合わせ

当社へのご相談・ご依頼は、お気軽に以下のフォームからお問い合わせください。