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【千代田区がマンション転売を制限へ】価格高騰・空室と今後の展望

【千代田区がマンション転売を制限へ】価格高騰・空室と今後の展望

■ はじめに:誰のためのマンションなのか?

東京都心のど真ん中、千代田区。

皇居や霞が関、省庁を擁するこの街が、いま深刻な住宅問題に直面しています。

一見、地価高騰は経済好調の証に見えますが、実態は異なります。区の調査で明らかになったのは、マンションの「半数が空室」「転売目的の投機的所有」「外国人による実態のない所有」など、住宅が“商品”として扱われている現実です。

この状況に歯止めをかけるべく、千代田区は「マンションの短期転売制限」に踏み切りました。

問題の本質:空室率50%が意味するもの

「都市の心臓部が空洞化している」──その現実が、いま千代田区で起きています。

千代田区が実施した実地調査によって、特定の高級分譲マンションにおいて空室率が50%を超えているという衝撃の事実が明らかになりました。

所有者の多くが居住しておらず、実際には「誰も住んでいない部屋」が建物の半数以上を占めている。

こうした“空きマンション”の増加が、単なる不動産投資の問題を超え、地域社会そのものに深刻な影響を与えつつあるのです。

コミュニティの消滅と管理不全

居住実態のない所有が増えることで、まず起きるのが「コミュニティの崩壊」です。
マンション内での交流がなくなり、住民同士の助け合いが消失する──これは防災・防犯にとっても極めて大きなリスクです。

また、管理組合の意思決定が滞りやすくなり、修繕積立金の滞納や老朽化対策の遅れといった資産価値の低下にもつながりかねません。

このように、空室率の高さは管理不全と直結し、居住者にとっても「住みにくい環境」になってしまいます。

社会問題としての“都市の空洞化”

この状況は、もはや「個人の資産運用の自由」として見過ごせる問題ではありません。

地方から若者や企業を呼び込むべき都市中枢において、住居としての機能を果たしていない物件が増えることで、地域経済・雇用・人口構成にまで影響が及んでいます。

つまり、「都市の空洞化」という構造的な問題であり、行政・業界・住民が一体となって対策を講じる必要があるのです。

ポイント

千代田区ではこうした状況を受け、投機的購入を制限する新たな条例制定の検討を始めています。

他自治体にも波及する可能性があり、首都圏全体の不動産市場の在り方に変化をもたらすかもしれません。

マンションの転売制限の実態とその影響

空室率の高さが示すのは、もはや“住むための家”ではなく“売るための箱”として扱われている現実です。こうした状況を是正すべく、千代田区が打ち出したのが「投機的マンション購入の制限」です。

千代田区が現在検討している規制内容は、以下のような具体策を含みます:

・購入後5年以内の転売禁止
→ 例:購入から5年未満は転売不可とすることで、短期売買を封じます。

・実需証明の義務化
→ 購入者に住民票や居住予定に関する誓約書を提出させ、投機目的の購入を牽制。

・転貸・民泊の制限支援
→ 区分所有法や管理規約の改正をサポートし、民泊や転貸(Airbnb等)を制限できる環境を整備。

これにより、「買って寝かせて転売するだけ」の不動産投資は難しくなり、実際に住む人の需要=実需に基づいた価格形成が進むことが期待されます。

規制逃れの抜け道と課題

しかし、制度にはまだ“抜け穴”が存在しています。

・法人名義での購入(居住実態の確認が困難)

・家族や関係者への名義分散(実態は一体運用でも形式上は別人格)

・海外資本による多重構造スキーム(行政の監視が及びにくい)

これらの抜け道を封じるには、さらなる法整備と、他自治体や国との連携強化が不可欠です。

現時点では“実効性の検証が必要”という段階にあり、制度の理念と現実のギャップをどう埋めていくかが、今後の焦点になるでしょう。

都市全体に広がる影響──規制の波はどこまで届くか?

千代田区の転売制限は、単なる一自治体の動きにとどまりません。その影響は、東京23区全体、さらには全国主要都市にまで波及する可能性をはらんでいます。

千代田区と同様に「高価格帯マンションの空室化・投機化」という構造的課題を抱えており、同様の規制導入が検討される可能性があります。

これらの区は、いずれも高額物件が集中し、かつ実需よりも「資産保有目的」の購入が目立つエリアです。

千代田区の制度設計が先行事例となれば、他区の議会・住民からも「なぜうちは規制しないのか?」という声が上がるのは必然です。

都心から湾岸・郊外・地方都市へ──資金の再配分

一方で、投資家の視点から見れば、都心の不動産投資に対する規制強化は、資金の“逃げ場”を模索する動きを促進します。

・湾岸エリア(江東区・品川区・大田区など)

・郊外エリア(調布市・三鷹市・川崎市など)

・地方中核都市(福岡・名古屋・仙台・広島など)

これにより、一部地域への過度な資金集中に歯止めがかかる一方で、別の地域で需給バランスが崩れる懸念も生じます。

たとえば、湾岸エリアで一気に価格が上がれば、再び“転売バブル”が繰り返される可能性も否定できません。

真の課題は「制度と市場の連携」

都市の不動産市場が抱える根本的な問題は、制度と市場のタイムラグです。千代田区のような先進的な対応があっても、他のエリアで追随しなければ、規制逃れが連鎖的に発生し、結局は問題の“地理的移動”に終わってしまうおそれがあります。

よって、国レベルでの都市政策、金融機関の審査基準、管理組合の運用体制強化など、多層的な取り組みが今後の鍵となるでしょう。

外国人購入者への視点と、国の対応の遅れ

千代田区の高級マンションにおける空室問題──その背後には、海外からの旺盛な購入需要も存在します。

日本では現在、外国人による不動産購入に大きな法的制限はなく、非居住者が日本国内でマンションを購入することも可能です。

特に都心部では、海外富裕層による現金一括購入が珍しくなく、「買ったまま放置された空き部屋」がタワーマンションに並ぶ光景も現実のものとなっています。

世界では制限強化の流れ

こうした動きに対し、他国ではすでに制限の方向へ舵を切っています。

・カナダ:2023年から外国人による住宅購入を2年間禁止(例外あり)

・ニュージーランド:外国人の既存住宅購入を原則禁止

・シンガポール:外国人には追加の印紙税(最大60%)を課すなど、強力な制限策を実施

これらの国々は、自国民の住宅取得を守るための政策として、明確な制限・規制を導入しており、外国資本の流入が住環境に与える影響に真正面から向き合っています。

日本は「まだ住宅は自由に買える国」

一方の日本では、2023年に施行された「重要施設周辺の土地等の利用状況調査および取得規制法」(いわゆる重要土地法)によって、防衛施設や原発などの周辺土地に限り一部の規制がかかるようになりました。

しかし、住宅地や都心のタワーマンションといった一般的な居住用不動産に対しては、今なお規制が未整備です。

結果として、空室問題や転売投資の温床となりうる現状が放置され、日本の都市住宅市場が“世界の資産保有先”と化している側面は否定できません。

必要なのは「明確な国家方針」

千代田区のような自治体レベルの対応だけでは、限界があります。
住宅市場の健全化には、「誰のための不動産政策か?」という国としての明確なビジョンが必要です。

・外国人による購入への何らかの制限

・実需を重視した価格形成の仕組み

・不動産税制の見直し(長期保有優遇など)

こうした視点をもとに、住宅が“投機の道具”ではなく“生活の場”として機能する社会設計が求められています。

管理組合と区分所有の盲点──空室増加がもたらす“法の死角”

マンションの空室率が高まると、管理組合の運営自体が立ち行かなくなる問題が顕在化します。

具体的には、

・総会の定足数が確保できず、重要な議決ができない

・修繕積立金の滞納が増え、計画的な維持管理が困難に

・防災計画の策定や実行が遅れ、住民の安全が脅かされる

といった課題が多発し、これは区分所有法や管理規約の制度設計の“死角”とも言える状況です。

法制度の改正と自治体支援の必要性

こうした課題を根本的に解決するためには、

・区分所有法の見直し・改正による管理組合運営の柔軟化・強化

・自治体による管理規約の策定や改定支援、運営ガイドラインの提供

といった仕組みが不可欠です。

たとえば、

・定足数要件の緩和や、オンライン総会の合法化

・滞納者への適切な対応策の明確化

・防災・防犯を視野に入れた管理組合の体制強化支援

これらが整うことで、空室が増えても管理組合が機能不全に陥らず、資産価値や住環境の維持が可能になります。

不動産業界の反応と、変化の兆し

今回の転売制限は、不動産業界にとって収益構造の見直しを迫る“転機”でもあります。

これまで、不動産会社の多くは「短期転売=ハイテンポな売買仲介」によって高い回転率と手数料収入を得てきました。

特に都市部では、転売益を狙った買い手と仲介業者が手を組み、短期間で次々と物件が動く“転売ループ”が日常化していたのです。

その意味で、転売を抑制する制度は業界にとって「収益源の縮小」を意味します。
しかし、その一方で──

“本来あるべき不動産業”への回帰

新たなルールは、業界にとって「質の転換」のきっかけにもなり得ます。

・実需者に寄り添った長期的な信頼関係の構築

・ライフスタイルに合った物件選びや住宅提案力の強化

・購入後も寄り添うアフターサービスや定期的なフォロー

これらは、本来の「住まいのプロ」としての役割に立ち返るチャンスとも言えるでしょう。

地場業者・中小不動産会社にとっての好機

大手資本や海外投資に頼らない地域密着型の中小企業にとっては、むしろこの状況はチャンスです。

・地域事情に詳しい担当者が、地元住民のニーズをくみ取る

・賃貸と売買の両面から定住志向の提案ができる

・自治体や管理組合とのネットワークを活かし、防犯・防災にも貢献

“売って終わり”から“暮らしを支えるパートナー”へ──。
そんな価値提供が、今後の信頼獲得と生き残りに繋がるでしょう。

都市居住の未来へ:定住者重視の住宅政策を

持続可能な都市づくりにとって不可欠なのは、「実際に生活し、地域に根付く定住者」の存在です。

千代田区の転売制限は、その第一歩に過ぎません。

今後、日本の都市住宅政策に求められるのは、以下のような多角的な取り組みです。

実需者向けの購入支援策──生活の拠点としての住宅取得を後押し

持続可能な都市づくりのためには、実際に住む人が安心して住み続けられる住宅環境の整備が欠かせません。

そのために、政府や自治体が積極的に取り組むべき支援策としては、

・税制優遇の拡充
住宅ローン控除の拡大や購入時の登録免許税・不動産取得税の軽減など、購入コストを抑える施策

・補助金制度の充実
子育て世帯や高齢者を対象とした住宅取得支援金の拡充や、リフォーム補助金など生活の質を高める支援

これらにより、「家は単なる資産ではなく、安心して暮らせる生活の拠点である」という実需者の声を反映した環境が整います。

特に重要なのは、子育て世帯・高齢者への支援強化

・子育て世帯が安心して子育てできるよう、周辺に保育・教育施設が充実した住宅支援策

・高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、バリアフリー住宅や介護サービスと連携した住環境整備

こうした支援策は、単に住宅取得を促進するだけでなく、地域コミュニティの活性化や多世代共生の実現にもつながる重要なポイントです。

高齢者・子育て世帯への定住誘導

都市部においても、安心して長く住み続けられる仕組みが求められています。

・地域密着型のコミュニティ形成支援
 → 多世代交流・防災連携・見守り体制など

・医療・福祉サービスとの接続性強化
 → 在宅介護支援や地域医療との連携で「暮らし続けられる街」へ

ESG視点を取り入れた都市型マンション開発

住宅開発にも、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の視点が不可欠です。

・省エネ設計・断熱性の強化による環境配慮

・防災拠点となる共用部、地域との連携設計

・管理運営の透明性・住民参加型の運営ガバナンス

こうした“サステナブルな都市住宅”が今後の開発の主流になるべきです。

空室物件への課税強化と活用促進制度

都市に点在する“使われない部屋”を動かす仕組みが必要です。

・空室に対する固定資産税の加重課税(空き家特例見直しなど)

・再活用や賃貸化を後押しする補助制度・マッチング事業の拡充

空室率を下げることは、地域の防災・治安・経済すべてに好影響をもたらします。

住宅は「投資商品」ではなく、「暮らしの基盤」である

不動産が「投資対象」として過熱しすぎた結果、本来の“住まい”としての役割が後回しにされてきました。

しかし、住まいはあくまで人が生きる場所であり、人生を営む基盤です。

今後の住宅政策は、「売るための家」から「暮らすための家」へ。
投機の対象から、生活空間への再定義が必要とされています。

千代田区の転売制限という小さな一歩は、都市居住の未来を問う大きなメッセージです。
この動きを単なる規制と見るか、暮らしを守る構造転換の始まりと捉えるか──
それが今、私たちに問われています。

千代田区の規制は“都市住宅の再設計”の始まり

マンションを「資産」ではなく「生活の場」として見直す動きが、ようやく始まりました。
千代田区の取り組みは、全国の自治体や国の住宅政策、そして不動産業界の姿勢を問い直す重要な転機です。

都市に人が住まなくなれば、インフラも、経済も、そして街の魂すら失われます。

不動産の未来は、“住む人”を中心に据えること──それが本質です。
今こそ、住宅の価値を「投資対象」から「暮らしの基盤」へと取り戻すときではないでしょうか。

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