こんにちは
あっという間に、11月も中旬になってしまいましたね。
師走の雰囲気も街角で感じられるようになってきましたね。
さて、今回は線引き前宅地のお話をしますね。
市街化調整区域の相談って、年に数十件のご相談を頂くのですが、そのたびに思うんですよ。
「線引き前宅地って言葉、ひとり歩きしすぎてない?」って。
ご相談者は、登記簿謄本や地図を持ってきて、「これ線引き前宅地ですよね?」て聞いてこられるんですけど、実は登記簿謄本の地目だけでは全てを判断することはできないんですね。
そもそも市街化調整区域って、“原則、建物を建ててはいけないエリア”なんですね。
だけど、そこに「市街化調整区域と市街化区域に線引きされる前から宅地だったもの」については、“例外的に建築OK” になる可能性があるんですね。
それが「線引き前宅地」というやつなんですが、問題はここから。これ、自治体によって考え方がまったく違うんですよ。
同じ県内でも市町村が違えば判断も違うし、隣の市ではOKなのに、うちの市ではダメってことも珍しくありません。
「市街化調整区域は全国ルールだと思ってました」なんて言われることもありますが、あれは“同じ名前の別制度”くらいに思っておいたほうがいいぐらい、自治体差が激しいんです。
まずは、厄介なのが「線引きした日」が自治体によって全然違うこと。
昭和40年代に一気に線引きした地域もあれば、徐々に線引きが進んだ地域もある。たとえば「昭和45年時点で宅地だったかどうか」がカギの自治体もあれば、「昭和47年の都市計画決定時点の利用状況」を見て判断する自治体もある。
そして、よく勘違いされるのが、「登記簿の地目が宅地である=開発行為・建築行為OK」という誤解です。
これまた自治体によって判断基準が違うんです。
えッ?線引き前宅地であっても開発行為・建築行為ができないの?と思う人もいると思いますが、現況が更地の線引き前宅地であっても親族要件が適用され制限が厳しい自治体もあれば、同じ状況の線引き前宅地であっても開発行為は認められて開発分譲まで許可ができる自治体もあります。
また、線引き前宅地であって過去に建物があった事も閉鎖謄本で確認ができても第3者による開発行為や再建築の許可は下りないという自治体もあります。
このように市街化調整区域の線引き前宅地は「昔から宅地だったら無条件に建築OK」ではないということも忘れちゃいけません。
自治体によっては、本当に細かいところまで突っ込まれるので、所有者さんが覚えていない過去の話まで持ち出されることもあります。
たとえば、「お父さんの代でしばらく畑に使ってましたよね?」なんて自治体が言い出したり…。そんな昔の話、覚えてなくて当然ですよね。でも、その“使っていた時期”が許可の可否に影響することもあるから、やっぱり調査は避けられない。
そんなわけで、線引き前宅地は、登記簿謄本だけ見て「建築ができる土地かどうか」を判断するのは不可能であって、むしろ、登記簿は“参考資料のひとつ”に過ぎなくて、本当の確認は自治体との情報照合です。
だからこそ、不動産業者としては「この自治体は何年を基準にしているのか」「どの資料を重要視するのか」「過去にどんな判断例があったか」まで知っておかないと、どのような取引になるか明確に説明できず売主にも買主にも誤解を与えてしまうことになります。
市街化調整区域の土地が売却できないと言われる理由って、実はこういう“見えないハードル”の多さにあるんですよね。
それでも、私はこの仕事が嫌いじゃないんです。むしろ面白い。だって、土地には必ず“歴史”がある。都市計画の線引きが始まった昭和の頃、その地域がどんな暮らしをしていたのか、どんな産業があったのか、どんな人たちが住んでいたのか…土地の調査をしていると、その背景が自然と見えてくる。土地を売る仕事というより、“地域の時代史を読み解く仕事”に近い感覚です。
そんな感じですので、私は今日も、登記簿謄本と航空写真、その他の資料を並べて、「さて、この土地の昭和の姿を探りますか」と独り言を言いながら作業をしているわけです。
市街化調整区域の線引き前宅地は…シンプルに見えて、実はめちゃくちゃ奥が深い。そんな話を、今日もまた誰かにしてしまうのでした。
