今回は、相続した不動産を巡る親族との確執について不動産業者からの思いを書いてみますね。
相続した不動産が「共有名義」になってしまい、売りたくても売れない。遺産分割協議が進まず、誰もが納得できないまま時間だけが過ぎていく…。そんな悩みを抱える方は少なくありません。
「もうこの面倒な問題から一刻も早く逃げ出したい」
「自分の持分だけでも手っ取り早く売って現金にしたい」
その気持ち、私はよく理解しています。誰だって複雑な相続問題に振り回されるのはつらいものですし、生活のために早急な現金化を望むのは当然のことです。
しかし、安易に共有持分を売却することには大きなリスクが伴います。知らずに進めてしまうと、後々さらに厄介な問題に発展してしまうことも少なくありません。
本記事では、相続不動産の共有名義問題に悩む方々に向けて、共有持分の売却のデメリットとリスクをわかりやすくお話をします
どうか焦らず、まずは正しい知識をもって慎重に判断していただければ幸いです。
「早くこの状況から逃げ出したい…」その気持ちはわかります。でも、共有持分の売却には大きなリスクがあることを忘れないでください。
相続によって得た不動産が「共有名義」になってしまい、親族である共有名義人と話し合いがまとまらず、どうにもならにあ。売ることもできず、管理や固定資産税の負担ばかりが積み重なっていく。
そんな状況に直面した方から、私たちは数多くのご相談をいただいています。
「もう話し合いは無理だし、自分の持分だけでも売ってしまいたい」
「手っ取り早く現金化して、この面倒な相続問題から解放されたい」
「ここから一刻も早く抜け出したい」
――そのお気持ち、私たちは本当によくわかります。感情的にも経済的にも追い詰められて、「これ以上関わりたくない」と思ってしまうのは、当然のことです。
しかし、そんなときこそ冷静に立ち止まり、「共有持分だけを売却することのリスク」について、しっかり理解していただきたいのです。
なぜなら、共有持分の売却は一見“楽な解決”のように見えて、実際は大きなトラブルや後悔につながる可能性が高いからです。
共有名義の相続不動産は「全員の合意」がなければ売れない
相続によって不動産を取得した際、遺言がない場合や遺産分割協議が成立していない状態では、法定相続分に応じて「共有名義」となります。
この状態では、原則として全員の合意がなければ不動産全体を売却することができません。
例えば、兄弟3人で相続した土地のうち、自分が3分の1の持分を持っていたとしても、勝手に土地全体を売ることはできないのです。他の共有者が売却に反対すれば、話は止まり、年月だけが過ぎていきます。
このような膠着状態に陥ると、共有者の誰かが「もういい、自分の持分だけでも売ってしまおう」と考え始めるのも無理はありません。
共有持分の売却は法的に可能。でも「売った後の現実」は?
法律上、自分の共有持分だけを第三者に売却することは可能です。
実際、「共有持分買取専門」をうたう不動産業者も存在し、そのような業者が一定の条件で買取を行っています。
しかし、ここで考えてほしいのは、「その先に何が起こるか」です。
共有持分だけを購入した業者や投資家は、その後、他の相続人に対して不動産全体の買取や売却を迫ったり、どちらの選択肢も共有名義人が拒絶すると最後の手段で裁判所を通じて共有物分割請求訴訟を起こすケースもあります。
つまり、自分が抜けたと思っても、他の共有者のところに“厄介な火の粉”が飛んでいく可能性が高いのです。
しかも、自分が売った持分がきっかけとなって、家族関係や親族間の信頼が完全に壊れてしまうことも少なくありません。
「とにかく早く現金化したい」と思ったときの3つの落とし穴
共有持分の売却を急ぎたいと思っている方が、特に気をつけるべきポイントを3つご紹介します。
1. 売却価格が大幅に下がる
共有持分だけを買っても、買主はその不動産を自由に使うことができません。居住もできず、活用もできないため、一般の買い手は付きません。そのため、共有持分の買主はほぼ業者のみです。こうした業者は、将来的なリスクや交渉コストを見込んで、相場の半額以下で買い取ることも珍しくありません。
「とにかく手放したい」という焦りから、知らないうちに大きな損をしていることに、あとで気づいても遅いのです。
2. 他の相続人との関係が悪化する
持分売却後、その持分を買い取った業者が他の共有者に対して強引な交渉を仕掛けると、「どうしてあなただけ抜けて、あとは業者に任せたの?」という不信感や怒りを招くことがあります。特に、相続人同士である程度の信頼関係があった場合、その関係が壊れることは精神的にも大きなダメージとなります。
3. 最終的な解決にならないことも多い
持分を売却した後も、その不動産自体が抱える問題(共有状態、権利関係、利用価値など)が解消されない限り、物件としての流通性は低いままです。最終的に「物件全体の売却」や「共有状態の解消」がされない限り、他の相続人も、買主も、そして売却したあなた自身も、不完全な状態にとどまる可能性があります。
私たち不動産業者としての思い
私は、相続不動産のご相談を数多く受ける中で、共有名義の問題に頭を悩ませる方々の姿をたくさん見てきました。
その中で、つねに感じるのは――
「早く抜け出したい」というそのお気持ちにこそ、最も大きなリスクが潜んでいるという事実です。
だからこそ、私は「共有持分の売却が唯一の正解ではない」ことを、きちんとお伝えしたいのです。
感情的な対立を調整するために、私たちが中立的な立場で相続人同士の橋渡し役となることもあります。
弁護士や司法書士と連携して、遺産分割協議のサポートに入ることもあります。
また、状況によっては、「今は売らず、管理や活用をしながら機を待つ」という判断も一つの戦略です。
焦って決断しないことで、最終的に家族関係を保ち、より良い条件で売却ができたというケースもあります。
最後に:後悔しない選択のために
「ここから早く逃げ出したい」という気持ちは、決して悪いことではありません。むしろ、ご自身の生活を守るためには当然の感情です。
ただし、その“逃げ出したい気持ち”に任せて行動することで、もっと複雑なトラブルを背負ってしまうことがあるという事実を、どうか忘れないでください。
もし、いま相続不動産の共有問題で悩んでいるなら、ぜひ一度私たちにご相談ください。
売却する・しないに関わらず、最も納得のいく解決策を一緒に探すお手伝いをさせていただきます。
