
住宅ローンの返済が苦しくなったとき、「自宅を売却しても、そのまま家賃を払って住み続けられる」という「セール&リースバック」の広告を目にすることが増えました。
テレビCMやネット広告では、さも簡単にあらゆる問題が解決するかのように、耳当たりの良い言葉が並んでいます。
しかし、実際に現場で数多くの任意売却や事業再生に携わってきた専門家として、私は最初にお伝えしなければならない「冷徹な現実」があります。リースバックは、決して万人の救世主ではありません。
本記事では、リースバックの仕組みという基本から、なぜこれほどまでに成功率が低いのかという業界の裏事情、そして「本当にリースバックで住み続けられる人の条件」を、綺麗事抜きで徹底解説します。
【著者プロフィール】 山中 賢一
ワイズエステート販売株式会社 代表取締役
不動産売却専門 兼 廃業・事業再生コンサルタント
埼玉県さいたま市を拠点に、大手不動産会社やFC店で「売却不可」と断られた市街化調整区域の売却において圧倒的な実績を持つ専門家。また、弁護士をはじめとする士業や専門家集団を率いる「プロデューサー」として、権利関係が複雑な訳あり物件、相続トラブル、さらには企業の廃業・再生に伴う資産整理まで、金融・法務・実務の三位一体で顧客の「後悔のない選択」を支援している。
結論:任意売却でのリースバック成功率はわずか2〜5%という現実

住宅ローンが払えなくなり、任意売却と組み合わせてリースバックを成功させられる確率は、体感値としてわずか「2〜5%程度」です。
ネット上では「任意売却=リースバック=住み続けられる」という三段論法が当然のように語られていますが、これは明確な誤りです。むしろ、任意売却を利用したリースバックが最も難易度が高いのが不動産実務の現実です。
なぜなら、住宅ローンを滞納している時点で「今後の家賃支払い能力」に重大な疑義を持たれるため、ボランティアではない民間投資家や不動産会社がリスクを取ってまで購入する動機が極めて薄いからです。
「住み続けたい」という売主側の希望(感情)と、投資家が求める「確実な利回り・回収可能性」(経済合理性)の間には、容易には埋められない巨大な溝が存在します。
専門用語の解説:正しく理解するための基礎知識

任意売却(任売)
リースバック
表面利回り(グロス)
※計算式:表面利回り}=年間家賃収入/物件購入価格×100
実質利回り(ネット)
残債(ざんさい)
リースバックとは

大手家電メーカーや食品メーカーが、本社ビルをファンド等に売却してまとまった現金を確保し、バランスシート(貸借対照表)をスリム化しつつ、そのまま同じビルで事業を継続する、という手法です。
この場合の最大の目的は「経営状況の改善」であり、売却によって多額の含み益(売却益)を出すことが前提となっています。
これが近年、個人の住宅ローン困窮者向けに応用され、「自宅を売却しても引越し不要で、見た目の生活を変えずに住み続けられる画期的な方法」として注目を集めるようになりました。確かに、以下のメリットがあるため、多くの相談者が「リースバックをしたい」と希望されます。
●引越し費用がかからない
●周囲や近所に住宅ローンの破綻を知られない
●子供の学区を変えずに済む
●将来的に買い戻せる(特約付きの場合)チャンスがある
しかし、この美しいメリットの裏には、個人向けリースバック特有の構造的な欠陥(デメリット)が隠されています。
リースバックが極めて難しい5つの理由

その具体的な理由を5つの側面に分けて解説します。
① 投資家が「未確定の残債務リスク」を躊躇う(任意売却の場合)
この残債をどのように分割返済していくのか、あるいは自己破産するのかという「債務処理の着地点」が見えていない段階で、投資家は購入を極めて嫌がります。
なぜなら、残債の返済負担によって、売主が「新しい家賃」を滞納するリスクが跳ね上がるからです。
② 住宅ローンの返済額よりも「家賃設定」が高くなる逆転現象
しかし、現実は真逆です。後述する「利回り」の計算上、多くの場合で【現在の住宅ローン返済額<リースバック後の家賃】という逆転現象が起こります。
住宅ローンが払えない人に、それ以上の家賃を請求する契約が成り立つはずがありません。
③ 「住宅ローンを払えないのに家賃は払えるのか?」という投資家の疑念
「月々の住宅ローンの支払いが遅れている」という事実そのものが、投資家にとっては「この入居者は経済的信用がない(=家賃滞納リスクが極めて高い)」という強烈なネガティブサインになります。
④ 家賃保証会社の審査の壁
しかし、リースバックの場合、保証会社の審査は非常に厳しくなります。
特に任意売却が絡む(個人信用情報に傷がついている、いわゆるブラックリスト状態の)ケースでは、主要な家賃保証会社が審査を通さないため、この時点で契約が頓挫します。
⑤ 買い手(投資家)と売り手(相談者)のトラブル激増による警戒
これを受けて、消費者庁や国土交通省から「リースバックのガイドブック」が公表される事態となりました。
トラブルが増えたことで、購入する側の投資家や大手不動産会社も、後々の訴訟リスクやレピュテーションリスク(評判の低下)を恐れ、個人向けのリースバック案件に対して以前よりも極めて慎重(実質的な門前払い)になっています。
不動産投資の冷徹な現実:「利回り」の壁

一般的な不動産会社や一括査定サイトでは、この計算式を意図的に隠すか、非常に甘い試算で見せかけます。
表面利回り7〜11%という市場の原理
具体的な数字でシミュレーションしてみましょう。
●住宅ローン残債:2,500万円
●任意売却での(投資家への)売却価格:2,000万円
この2,000万円で購入した物件に対し、投資家が「利回り7%」を求める場合、年間で必要な家賃収入は 140万円(月額約11.6万円)です。
もし投資家が安全を見て「利回り11%」を求めるならば、年間で必要な家賃収入は 220万円(月額約18.3万円)となります。
さらに、これでも住宅ローン残債2,500万円に対して売却額が2,000万円ですから、元所有者には「500万円の残債」が残り、この毎月の分割返済(仮に月3万円とします)も発生します。
家賃は「家の価値」ではなく「投資利回り」で決まる
しかし、リースバック業者が提示する家賃は、近隣の家賃相場ではなく「業者が期待する投資利回り(年7%〜11%程度)」をベースに機械的に算出されます。
その結果、買い取り価格に対して設定される月額家賃(11.6万〜18.3万円)は、元の住宅ローンを遥かに上回る金額になってしまうのです。
自宅を売っても「借金(残債)」が残る
不動産の売却代金だけでは住宅ローンを完済できず、手元に「残債」が残ってしまった場合、その返済(月額 約3万円)はリースバック後の家賃とは別に支払い続けなければなりません。
破綻を先送りするだけの「延命治療」になっていないか
一時的にまとまった現金が手に入り、引っ越しをしなくて済むというメリットに目を奪われがちですが、毎月の収支は以前よりも確実に悪化します。
リースバック後の多くの場合、数ヶ月から1年で家賃が払えなくなり、最終的には強制退去という最も悲惨な結末を迎えることになります。
だからこそ、安易なリースバックに飛びつく前に、家賃の現実的なシミュレーションと、任意売却(任意売却+早期の通常売却)を含めた抜本的な見直しが不可欠なのです。
マンション特有の罠:実質利回りの悪化
もし対象物件が区分所有マンションの場合、状況はさらに悪化します。マンションの場合、毎月の「管理費」と「修繕積立金」が発生します。
これらは、所有者である投資家が管理組合に支払わなければなりません。
仮に管理費・修繕積立金が合計で月2.5万円(年間30万円)、固定資産税が年10万円かかるとします。投資家が2,000万円でマンションを買い、元所有者から月12万円(年144万円)の家賃をもらったとしても、手元に残るのは以下の通りです。
投資家の手残り(年間)} = 144万円}- 30万円(管理・修繕)} - 10万円(固資税)} = 104万円
この場合の実質利回りは、わずか5.2%(104万円÷2,000万円×100にまで低下します。
マンションや戸建てのリースバックは、「1世帯のみ」に貸し出す一棟貸し状態です。
もしも、この元所有者が家賃を滞納したり、夜逃げしたりすれば、投資家の家賃収入は即座に「0円」になり、毎月の管理費やローン支払いの持ち出しだけが残ります。
このような「ハイリスク・ローリターン(実質利回り4〜5%台)」の物件に、喜んで数千万円を投資するまともな投資家は、市場にほとんど存在しないというのが不動産一括査定サイトが決して書かない真実です。
一般の不動産会社が絶対に書かない「リースバックの裏事情」

① 定期借家契約という「期限付きの退去リスク」
賃貸借期間は2年〜5年程度が多く、「更新可能」と書かれていても、それは投資家側の胸三寸(合意)次第です。投資家は、数年後に物件を空室にして一般市場で高く転売(イグジット)することを見据えて購入しているため、数年後に強制退去を迫られるトラブルが絶えません。
② 買い戻し価格(再売買価格)が非現実的に高い
1,500万円で買い叩かれた我が家を、数年後に2,000万円で買い戻すだけの資金力を、住宅ローン破綻寸前の人が数年で構築できるケースは、現実的にまずありません。
③ 仲介手数料と手数料稼ぎの「見せかけの提案」
最終的に「投資家が見つからなかったので、通常の任意売却(または競売)にするしかありませんね」と梯子を外し、通常の売却仲介手数料だけを獲得する、という手口です。
最初から現実を伝えない不動産会社には強い警戒が必要です。
リースバックで住み続けることが可能な「4つの例外条件」

条件①:住宅ローンの残債が極めて少ない(アンダーローン)
例えば、市場価値が2,500万円の物件で、ローンの残債が800万円しかない場合、投資家に1,200万円程度で売却すればローンは全額完済でき、残債務は残りません。
投資家側も「安く仕入れられた(=高利回りを確保できる、あるいは転売で儲かる)」となるため、家賃を低く抑えても(例:月6万〜7万円)リースバックが成立しやすくなります。
目安としては、「自分が支払える現実的な年間家賃の10倍程度」にまで住宅ローンの残債が減っていることが一つの基準となります。
条件②:家賃設定に見合う「確実な収入」と「保証人」がある
これに加え、経済的に完全に自立している親族が「連帯保証人」として実印を押せる状態であれば、投資家や家賃保証会社の警戒レベルは一気に下がります。
条件③:住宅ローン以外の「多重債務」が原因であり、自己破産で解決できる
この場合、リースバックによる売却と同時に「自己破産」などの法的整理を行い、住宅ローン以外の借金をすべて合法的に消滅(免責)させます。
借金がゼロになり、現在の収入をすべて「家賃の支払い」に充てられる状態を作れれば、投資家に対して「家賃滞納リスクが低い」と合理的に説明できるため、リースバックの道が開けます。
条件④:親族間売買(親族によるリースバック)が成立する
身内であるため、投資家が求めるようなシビアな「利回り10%」や「家賃保証会社の審査」を要求されることがなく、最も確実に住み続けられる方法と言えます。
ただし、親族が住宅ローンを組んで購入する場合、金融機関から「親族間売買への融資は原則不可」とされるケースが多いため、専門的なコーディネート(プロデューサーの手腕)が必要です。
実務現場からの警告:お断りせざるを得ないケース

しかし、以下のような姿勢や状況のお客様に関しては、大変心苦しいのですが、任意売却も含めてご依頼自体をお断りするケースがあります。
●自身の就労状況や詳細な収入状況を明かさない(隠し事がある)
●家賃の連帯保証人になってくれるあてが全くない
●「とにかく家賃はいくらでもいいから、住み続けさせてくれ」と感情論だけで現実的な計画を拒む
なぜお断りするのかと言えば、契約後に100%トラブル(家賃滞納による強制立ち退き、投資家からの訴訟など)になることが明白だからです。
弊社は相談者を一時的に喜ばせるために無理なスキームを組み、数ヶ月後にさらに深い地獄へ突き落とすような仕事はいたしません。
現実を直視し、生活再生のための合理的な計画を受け入れていただくことが、ご相談をお受けするための絶対条件となります。
住宅ローン・リースバックに関するQ&A(よくある質問)

Q1. リースバックをした後、家賃はずっと変わらないのですか?
また、物件が別の投資家に転売された場合、新しいオーナーから賃貸条件の変更を迫られる可能性もあります。「ずっと同じ家賃で住める」という保証はありません。
Q2. リースバック後、自宅の固定資産税や火災保険はどうなりますか?
なお、投資家が支払う固定資産税やマンションの管理費は、すべて「あなたの家賃」に上乗せされて計算されているため、間接的には払い続けていることになります。
Q3. 「買い戻し特約」をつけておけば、いつでも自宅を取り戻せますか?
買い戻しには、売却価格よりも高額な資金が必要となるだけでなく、「○年以内」という厳格な期限が設けられます。期限内に一括で資金を用意できなければ、買い戻し権は消滅します。また、一度住宅ローンを破綻させているため、再度あなた自身が買い戻しのための住宅ローンを組むことは、個人信用情報の問題から極めて困難です。
Q4. 競売開始決定通知が届いてからでもリースバックは間に合いますか?
競売の手続きが進んでいる場合、タイムリミット(入札開始日の前日まで)が非常に厳しく、債権者(金融機関)との交渉や投資家の選定、契約手続きを完了させる時間が物理的に足りません。リースバックの可能性を少しでも残したいのであれば、滞納初期、あるいは滞納する前の段階で相談されなければ間に合いません。
Q5. リースバックがダメだった場合、どのような選択肢がありますか?
「住み続けること」に固執して家計を圧迫し続けるよりも、一度不動産を売却して身の丈に合った家賃の賃貸物件に引越し、借金を整理した方が、結果として早く平穏な生活を取り戻せます。
まとめ:「自宅を守る」ことよりも本当に大切なこと

収入が完全に途絶えている状況や、現在の住宅ローン返済すら困難な状態でリースバックを選択することは、多くの場合、傷口をさらに広げる結果となります。
借金を抱えながら、相場以上の高い家賃を支払い続ける生活は、あなたの家計と精神を確実に蝕んでいきます。
相談に来られる方の多くは「自宅を守りたい」「家族のために今の家に住み続けたい」とおっしゃいます。そのお気持ちは痛いほどよく分かります。しかし、ここで一度、立ち止まって冷静に考えてみてください。
あなたにとって本当に大切なものは何ですか?
「持ち家という不動産の所有権(またはその空間)」ですか? それとも、「家族の笑顔」「日々の安定した生活」「心身の健康」ですか?
「自宅を守る」ことに固執するあまり、本当に大切な家族の未来や、自身の再起のチャンス(生活再建)を見失ってしまう方が後を絶ちません。
住宅ローンの返済が厳しい時は、一人で抱え込まず、プライドを捨てて、勇気を持って家族に今の状況を相談してみてください。
あなたが「家を手放したら家族に申し訳ない」と思っていても、家族からは「自己破産してでも、パパ(ママ)が楽になって笑顔で暮らせる方がいい」と言われるケースが非常に多いのです。
不動産売却・事業再生のプロフェッショナルとして

他社で断られるような市街化調整区域の難解な不動産売却や、相続したものの処分に困る古家・ゴミ屋敷物件、そして不良債権化した不動産の任意売却・債務整理のコーディネートまで、各士業(弁護士・税理士・司法書士)のネットワークを統括して最適な解決策をご提案します。
きれいごとだけのリースバックの提案はいたしません。
お客様の5年後、10年後の生活再建を見据えた「真実の対話」をさせていただきます。対応エリアは埼玉県内のみならず、全国対応しております。まずは、あなたの苦しい胸の内を私たちにお聞かせください。
【著者プロフィール】
山中 賢一
ワイズエステート販売株式会社 代表取締役
不動産売却専門 兼 廃業・事業再生コンサルタント
埼玉県さいたま市を拠点として、全国の複雑な不動産問題を解決に導く専門家。
大手不動産会社やFC店で「売却不可」と断られた市街化調整区域、権利関係が複雑な訳あり物件、相続トラブル等の売却において圧倒的な実績を持つ。
また、提携法律事務所との強固なネットワークを活かし、廃業・倒産に伴う法人名義の不動産売却や、資金繰りに苦しむ経営者のための資産整理・再生スキーム構築を得意とする。単に「売る」だけでなく、任意売却や債権者交渉、弁護士と連携した法的措置を伴う出口戦略まで、金融・法務・実務の三位一体で顧客の「後悔のない選択」を支援している。
ワイズエステート販売株式会社
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