はじめに
市街化調整区域内の土地において、過去に開発許可を受けて建てられた「分家住宅」や「事務所・工場」などを売買・活用しようとした際、多くの不動産会社や建築士から「開発許可時の目的と異なる建物は、原則として建て替え(新築・改築)も用途変更もできません」と断られた経験はないでしょうか。
しかし、そこで諦める必要はありません。
都市計画法には、画一的な制限によって生じる不合理を救済するための重要な例外規定が存在します。それが「都市計画法第42条第1項ただし書(ただしがき)」です。
本記事では、市街化調整区域の土地活用における最大の鍵となる「42条1項ただし書」の仕組みについて、実際の自治体(埼玉県川越市など)の実務審査基準を交えながら、実務上の判断ポイントまで徹底的に解説します。
結論:都市計画法42条1項ただし書とは?

都市計画法第42条第1項ただし書とは、「原則として禁止されている予定建築物等以外の建築物の新築・改築や用途変更について、一定の要件のもと例外的に許可(または適用除外)される制度」です。
この規定が適用(または許可)されるルートは、大きく分けて以下の2つに集約されます。
- 【個別許可ルート】周辺の利便増進や環境保全に支障がないと判断され、知事や市長(特定行政庁)から個別に許可(実務上「42条許可」と呼ばれることが多い)を得る方法。
- 【用途地域等が定められている土地における適用除外ルート】過去に「用途地域」が定められていた経緯(主として逆線引き等)があり、その制限(用途地域存置)の範囲内であるため、42条本文の制限を受けずに建築できる方法。
ただし、この制度は「どんな建物でも自由に建てられる万能の制度」ではなく、あくまで「原則禁止に対する例外規定」です。
市街化調整区域で「眠っていた土地」を正しく蘇らせるためには、このただし書の性質を正しく理解し、各自治体が定める独自の「審査基準」をクリアできるかどうかが成否のすべてを握ります。
1. 基礎知識:都市計画法42条1項の「原則」と「例外」の構造

まずは、なぜ市街化調整区域においてこの条文がこれほどまでに重要視されるのか、法律の基本的な骨組みから整理していきましょう。
① 原則:開発許可後の建築等の制限
都市計画法第42条第1項の本文(原則)では、以下のように定められています。
何人も、開発許可を受けた開発区域内においては、第36条第3項の公告があった後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物又は特定工作物を新築し、又は新設してはならず、また、建築物を改築し、又はその用途を変更して当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物としてはならない。
これを分かりやすく言うと、「市街化調整区域で開発許可(法29条)を取って建てた土地は、その時に役所と約束した通りの建物(用途・規模)として使い続けなさい。勝手に別の種類の建物を建て直したり、お店や事務所にリフォームして使ったりしてはいけません」という強力な制限です。
例えば、
- 「分家住宅(農家の親族が住むための家)」として許可を取った土地に、第三者が一般の建売住宅を建てる。
- 「自社用事務所」として許可を取った建物を、一般向けの「カフェ」にリフォームして営業する。
これらはすべて、都市計画法第42条1項の「原則」によって原則として認められません。市街化調整区域の土地が「買い手がつきにくい」「活用が難しい」と言われる最大の理由がここにあります。
② 例外(ただし書):柔軟な運用を可能にする救済措置
しかし、時代が変わり、社会情勢や所有者の家庭環境が変わっても「10年、20年前の許可内容に未来永劫縛られ続ける」というのは、あまりにも酷であり合理的ではありません。
そこで登場するのが、同項の後半に記された「ただし書」です。
ただし、都道府県知事が当該開発区域における利便の増進上若しくは開発区域及びその周辺の地域における環境の保全上支障がないと認めて許可したとき、又は建築物及び第一種特定工作物で建築基準法第88条第2項の政令で指定する工作物に該当するものにあっては、当該開発区域内の土地について用途地域等が定められているときは、この限りでない。
この下線部分こそが、硬直化した調整区域の土地利用に「柔軟な運用」を可能にするための法的根拠(例外規定)なのです。
2. 専門用語の徹底解説(用語集)
実務的な話に進む前に、この記事で頻出する重要な都市計画法の専門用語を分かりやすく解説します。
| 用語 | 解説 |
| 市街化調整区域 | 市街化を抑制する(建物を積極的に建てさせない)ために指定された区域。原則として新築や開発行為が厳しく制限されています。 |
| 開発許可(都市計画法第法29条) | 主として建築物の建築などのために、土地の区画形質を変更する(造成などを行う)際、知事や市長から受ける許可のこと。 |
| 特定行政庁 / 開発許可権者 | 建築確認や開発許可を出す権限を持った自治体の首長(知事や、川越市のような建築主事を置く市の市長など)や、その行政機関のこと。 |
| 用途地域存置 | 過去に「市街化区域(建物を建てて良いエリア)」だった場所が、主として逆線引き等によって「市街化調整区域」へ変更された際、かつて設定されていた用途地域(第一種低層住居専用地域など)の制限を、調整区域になった後もそのまま維持(存置)して適用すること。 |
| 逆線引き | 都市計画の区域区分の見直しにより、一度は「市街化区域」に指定された場所が、人口減少や環境保全の観点から「市街化調整区域」へ変更されること。 |
| 開発審査会 | 都市計画法に基づく許可や処分の妥当性を審議するために、各自治体に設置されている法律・建築・都市計画の専門家からなる第三者委員会。 |
3. 都市計画法42条ただし書が認める「2つの救済ルート」と注意すべき点

条文の読み解きでも触れた通り、都市計画法42条42条1項ただし書には、実務上全く性質の異なる2つのルートが存在します。ここを混同すると資金計画やスケジュールが完全に狂うため、明確に切り分けて解説します。
ルート①:知事(市長)の個別許可(42条許可)をもらうルート
条文の「都道府県知事が当該開発区域における利便の増進上若しくは開発区域及びその周辺の地域における環境の保全上支障がないと認めて許可したとき」がこれに該当します。
実務上は、これを「都市計画法42条許可」や「予定建築物等以外の建築許可」と呼びます。
多くの自治体では、この個別許可ルートが実務上中心になります。申請者が自ら「この予定外の建物に変えても、周りの迷惑になりませんし、むしろ地域の利便性が上がります」という計画書を役所に提出し、個別に審査を受けてパスする方法です。
ルート②:用途地域が定められている土地における「適用除外」ルート
条文の後半にある「当該開発区域内の土地について用途地域等が定められているときは、この限りでない」という部分です。
これは「用途地域存置」の問題として議論される実務論点です。
通常、市街化調整区域には用途地域は設定されませんが、主として「逆線引き」によって市街化区域から市街化調整区域になってしまった土地などでは、例外的に過去の用途地域の制限がそのまま引き継がれて残っている(存置されている)ケースがあります。
この場合、「用途地域のルールの範囲内の建物であれば、42条本文による予定建築物等の制限は受けない」という意味になります。
【実務上の注意点】
「この限りでない」とは42条本文の制限(予定建築物以外の建築禁止)が適用されないという意味であり、建築基準法やその他の法令上の手続き・制限まで免除されるわけではありません。
土地に残された用途地域が定める用途制限、建ぺい率、容積率、さらには地区計画や自治体の条例、建築確認審査等は当然すべて適用されます。決して「確認なしで何でも自由に建つ土地」になるわけではない点に注意が必要です。
4. 【実務最優先】まずは開発許可台帳の確認がすべてのスタート

不動産のプロが最初に確認するのは、「当初の開発許可で予定建築物が何だったのか」です。
なぜなら、第42条第1項ただし書による用途変更の可否は、この「出発点」に大きく左右されるからです。
例えば、分家住宅として許可された建物は、属人的な許可として認められているケースが多く、第三者が一般住宅や店舗として利用する場合は慎重な審査が行われます。
一方で、自己用住宅などとして許可された建物は、許可条件や自治体の運用によっては用途変更が認められる可能性があります。
ただし、どちらの場合も「分家住宅だから必ず不許可」「自己用住宅だから必ず許可」というわけではありません。最終的には当初の許可内容や経緯、現在の状況などを踏まえて個別に判断されます。
市街化調整区域の実務では、42条許可は全国一律ではありません。
例えば埼玉県でも、開発審査会基準や自治体の運用によって判断が異なります。ある自治体では認められるケースでも、別の自治体では認められないことがあります。
そのため、「当初の予定建築物を確認すること」が最優先なのは事実ですが、それだけで結論は出ません。 許可書、開発登録簿、許可条件、自治体の運用基準まで確認して初めて、42条第1項ただし書による用途変更の可能性を判断できる、というのが実務に即した説明になります。
調査に必要な資料
この「過去の歴史」が不明なままでは、42条許可の可否を判断することはできません。事前の確認に向けて、以下の資料を確保・確認することが大切です。
- 開発許可台帳(開発登録簿): 多くの自治体で閲覧や写しの交付が可能です。許可日や当時の予定建築物の用途が明記されています。
- 検査済証: 開発工事が適正に完了した証明書。
- 当初の許可図面: 敷地の範囲(開発区域)を特定するために必須。
- 当時の許可通知書: どのような条件がついているかが分かります。
5. 自治体によって異なる「審査基準」:川越市を例にしたリアルな実務

都市計画法42条1項ただし書の具体的な運用ルールは、各自治体(特定行政庁)が制定する「開発許可基準」や「運用指針」に委ねられています。
ここでは、実際の川越市の審査基準をベースに、役所がどのような目線で可否を判断しているのか、その基準を紐解きます。
※なお、以下で紹介する川越市の基準は令和6年4月現在の川越市開発許可基準に基づく内容です。自治体の制度改正等により運用が変更される場合があります。
川越市における「対象となる建築物等」の条件
川越市の審査基準(対象となる建築物等)によると、ただし書による許可の対象となるには、単に「建て替えたい」というだけでは認められず、以下のいずれかの条件をクリアしている必要があります。
- 一: 許可申請等に係る建築物が法第29条第1項第2号又は第3号に規定する建築物である場合(農林漁業用建築物や、公益上必要な施設など)
- 二: 許可申請等が法第43条第1項第1号から第3号まで又は第5号に該当する場合(既存建築物の敷地内での建て替えや、日常の利便施設など)
- 三: 許可申請等に係る建築物又は特定工作物が法第34条第1項から第12号までに規定する建築物又は特定工作物である場合(調整区域内で例外的に認められる周辺住民のための店舗、ガソリンスタンド、分家住宅など)
これらが意味するのは、「42条ただし書の例外許可を出すにあたっても、市街化調整区域全体の建築制限(法34条や法43条など)の精神を逸脱しないものに限る」という大前提です。
川越市における「用途変更」の「時間的制限」と「やむを得ない事情」
さらに実務的に重要なポイントが、川越市の審査基準(対象となる用途変更)に明記されています。川越市で用途変更を認めさせるには、以下のいずれかの「壁」をクリアする必要があります。
パターンA:時間経過による解決
- 条件: 開発行為に関する工事の完了後「20年」を経過していること。
20年という歳月が経過していれば、当初の開発許可の目的としての役割を十分に果たしたとみなされ、周辺環境に支障がない限り、別の用途への変更が許可対象となり得ます。
パターンB:やむを得ない事情による救済(5年〜20年未満)
- 条件: 工事完了後「5年」を経過し、かつ予定建築物の使用者(開発許可を受けた者)に以下のいずれかの切実な事情が存在すること。
- イ: 破産手続開始の決定
- ロ: 生活の困窮その他の生活環境の著しい変化のため、その住居の移転を余儀なくされた場合
- ハ: 事業経営の状況が悪化したことにより、当該事業を継続することが困難になった場合
つまり、「まだ建ててから10年しか経っていないけれど、破産したため、この事務所を売却して別の人に違う用途で使ってもらうしかない」というような、人道上・経済上の救済措置として初めてただし書が適用されます。
【重要:年数や要件は全国一律ではありません】
なお、川越市では20年という基準が設けられていますが、この年数は都市計画法で全国一律に定められているものではありません。自治体によっては「10年」「15年」「20年」、あるいは「年数ではなく個別審査」など運用が異なります。必ず対象不動産がある自治体の最新の開発許可基準を直接確認してください。
6. 似て非なる制度:「42条許可」と「43条許可」の決定的な違い

市街化調整区域の建築を調べていると、必ず「42条許可」と「43条許可」という2つの言葉にぶつかります。この2つは実務上、明確に異なる制度です。
| 項目 | 都市計画法42条1項ただし書(42条許可) | 都市計画法43条1項(43条許可) |
| 対象となる土地 | 過去に「開発許可(29条)」を受けて造成・整備された土地 | 過去に開発許可を受けていない市街化調整区域内の土地(昔からの既存宅地や農地など) |
| 目的 | 過去に決めた「予定建築物」の制限を変更・解除して建築する許可 | 開発行為を伴わない土地に、新しく建物を建築するための許可 |
両方必要になるケース
実務では、「過去に開発許可を受けた土地(42条の対象)」の一部を分筆して、新しく別の建物を建てようとする場合など、「42条の予定建築物等以外の建築許可」と「43条の建築許可」の両方の要件を同時に確認・整理しなければならないケースも存在します。
7. 42条ただし書が問題になる「代表的な6つのトラブル事例」と関連法規

実際にどのようなシーンで42条ただし書(および周辺法規)が問題になるのか、代表的な6つの事例を挙げます。
- 分家住宅を第三者へ売却(一般住宅への変更)したい農家の子息のために許可された建物のため、原則そのままでは第三者は住めません。42条ただし書(または各自治体の包括一任基準・提案基準)に基づき、「やむを得ない事情(相続や転勤、経済的困窮等)」を立証し、一般住宅へ用途変更する許可を得る必要があります。
- 工場を倉庫(またはその逆)へ変更したい「工場」と「倉庫」は都市計画法上、異なる用途です。周辺道路の幅員やトラックの出入りによる環境変化(騒音・振動)が審査されます。また、建築基準法上の用途変更手続きや消防法の基準クリアが求められます。
- 事務所を店舗(カフェや物販店)に変更したい市街調整区域内では店舗の建築は厳しく制限されています。都市計画法34条1号(日常生活に必要な物品の販売店等)などに該当するかどうかが鍵となり、要件を満たさなければ42条ただし書の許可は下りません。
- 農家住宅を一般住宅へ変更したいもともと都市計画法の「開発許可不要の特例(法29条1項2号)」で建てられた農家住宅は、農林漁業を営む人でなくなれば居住要件を失います。これを一般の人が買えるようにするには、高度な法的ロジックが必要です。
- 社宅(寄宿舎)を一般の賃貸住宅へ変更したい特定の企業の従業員を住ませるための「社宅」として許可された建物を、一般向けの「共同住宅(アパート)」に変えるケースです。自治体によって厳しく制限されており、事前の十分な調査が必要です。
- 古い建物を福祉施設(サ高住やグループホームなど)へ用途変更したい社会福祉施設は調整区域でも比較的認められやすい用途(法34条14号や提案基準など)ですが、42条ただし書だけでなく、建築基準法(バリアフリー・避難経路)、消防法、福祉・介護保険法の施設基準を同時に満たす必要があります。
8. 都市計画法42条1項ただし書に関するQ&A

Q1. 42条許可が下りる前に、建築確認申請を進めることはできますか?
A1. 自治体によりますが、並行して審査(並行審査)を行ってくれるケースもあります。
「42条許可が完全に下りるまでは建築確認を一切受け付けない」という自治体もあれば、手続きの遅延を防ぐために「42条の審査と建築確認の審査を並行して進め、最後に同時に許可・確認を出す」という柔軟な自治体もあります。事前審査スケジュールの確認が必須です。
Q2. 工事完了から20年経過していれば、役所の許可(42条許可)なしで勝手に用途変更していいですか?
A2. いいえ、勝手に変更はできません。
川越市の基準にある「20年経過」というのは、あくまで「ただし書の『許可』を出すための審査基準(要件)を満たした」という意味に過ぎません。事前に対象行政庁に対して42条許可の申請を行い、正式な許可書を取得しなければ都市計画法違反となってしまいます。
Q3. 「用途地域が定められている土地(ルート②)」なら、確認申請だけで家が建ちますか?
A3. 42条の個別許可手続きは不要ですが、建築確認などのその他の法令チェックは必要です。
用途地域が存置されている場合、42条本文の制限からは除外されるため「42条許可申請」の手続き自体は不要になります。ただし、建築基準法やその用途地域のルール(建ぺい率・容積率・北側斜線等)を満たしているかを審査する「建築確認申請」は当然必要となります。
関連条文(参考掲載)

都市計画法第42条第1項(開発許可を受けた土地における建築等の制限)
第42条 何人も、開発許可を受けた開発区域内においては、第36条第3項の公告があつた後は、当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物又は特定工作物を新築し、又は新設してはならず、また、建築物を改築し、又はその用途を変更して当該開発許可に係る予定建築物等以外の建築物としてはならない。ただし、都道府県知事が当該開発区域における利便の増進上若しくは開発区域及びその周辺の地域における環境の保全上支障がないと認めて許可したとき、又は建築物及び第一種特定工作物で建築基準法第88条第2項の政令で指定する工作物に該当するものにあつては、当該開発区域内の土地について用途地域等が定められているときは、この限りでない。
参考資料・根拠法令
- 都市計画法(昭和43年法律第100号)
- 都市計画法施行令(昭和44年政令第158号)
- 国土交通省『開発許可制度運用指針』
- 埼玉県『開発許可制度の概要・開発許可基準』
- 川越市『川越市開発許可基準』
まとめ:失敗しないための「3ステップ行動指針」

市街化調整区域の土地は、都市計画法42条1項の「原則」だけを見れば、身動きの取れない「活用が難しい不動産」に見えてしまうかもしれません。しかし、今回解説した「ただし書(例外規定)」を正しく理解し、以下のステップを確実に踏めば、活用への道が開ける可能性は十分にあります。
- 「開発許可台帳」を役所で確認・取得し、当初の予定建築物を把握する。
- 対象自治体(特定行政庁)独自の「開発許可基準(年数や要件)」を調べる。
- 具体的な計画案と資料を持って専門窓口へ事前相談に行く。
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